小さい時はなりたいものが沢山あった。一番最初は、お父さんのお嫁さん。次は、プ●キュア。その次は、お花屋さん、おもちゃ屋さん、ピザ屋さん、パン屋さん、忍者だった時もあったし、ケーキ屋さんもなってみたかったし。少し大きくなって、大人ぶって政治家なんて言っていたときだってあったし、現実見て「公務員」て答えたりとかもした。



それでも結局今は、何もなりたいものがないのだけれども。
夢は消えるのが速いと思った。もうどんどん自分が一番今何がしたいのか分からなくなってきているような感じがした。日に日に、バカにされるのが怖くなって、恰好つけ始めた。



◆◇◆◇



『進路』



「 はい。今から配った紙に、記入して提出。期限は守れよ〜。これから何回かかかされると思うけど、今と変わってても平気だから、ちゃんと書いて提出しろよ 」



チョークの粉をパンパンと振り払いながら言ったのは学校の先生の中で一番美形だと歌われる担任。


数学教師なのだが方程式よりみんな先生の顔に注目するという異例の事態発生。カッコいいとは思うし面白い先生だが残念ながらときめけないのは今まで生きてきて分かった私の習性だ。



そして、これが一番問題だ。就職。困る。なりたいものなんてない。高校2年生の秋だ。そろそろ、決めなちゃいけないことだって知ってる。
でも、それでも、ほんとうにない。というか、わからない。しかも、「もう、高2」ってわかってる自分もいるけど「まだ高2」って思ってるのもある。というか、それがすべてだと思う。



私って何になりたかったんだっけ。



中学の時行った職場体験は友達に誘われて一緒に保育園に行った。小さい子は嫌いじゃないし可愛かったけど面倒だった。一緒にカレー作ったら人参は残すし零してべたべただし。お昼寝で寝てる時が一番かわいかった。友達と「やっと寝たね」って苦笑いし合った。


それでも3日目の最後の時はすごくかわいかった。代表の子が前に出てきて「ありがとう」って手作りの輪っかをかけてくれた時にみんなでうるっとした。「あたしがつくったの」って恥ずかしそうにもじもじしながら言う子たちと離れたくないって思ったのも覚えてる。繊細に。
すごくいい体験だったと思う。すごく



それでも、私は保育士さんになりたいとは思わなかった。すごい、あこがれるしいい仕事だとは思うけど。



何とも言えない気持ちに見舞われて何も見ずに用紙を机にしまった。







◆◇◆◇








うん。私は悪くないと思う。なぜか帰り「ちょっと、吉川残って」とか帰りの学活で先生にみんなの前で呼びとめられて近くの席の友達に「何やったの」って不思議そうな顔で聞かれた…普段は比較的いい子でいるつもりなのに。こっちが聞きたい。先生なんですか。


生徒はまだ残っているが早く帰りたかったからし、すぐ先生のところにいって終わらせようと思った。



「 なんですか 」



苦笑いを浮かべながら呆れたように私を見た。なんなんだ、ほんとに。



「 ほら、思い出せないかなー。進路の紙。あれ出してないの御前だけだからさ 」


「 ああ、。 」


そういえば、あの紙どうしたんだっけ。しまって…で、家でも書かずに、、、ん?そのあとどうしたっけ。


「 できれば、今日今すぐ書いて出してほしいんだけど、それも無理があると思うからなー。家で今日書いて明日もってくるでいいから。家の人と相談しといで 」



新しい提出用の紙を渡された。



「 あ、はい。わかりました。…さよなら 」



話が終わると、「うっさい」というのを全面的に出してそのまま、ぺこっと少し頭をさげ机の上に置いていた鞄を手に取って肩にかけ教室を出るのを急いだ。


家の人ってなんなんだ。高校生だぞ。それも高2の冬頃で。


何にしようか、一応適当な学校をかいて提出してしまおう。大学…うむ。どこがいいんだろう。家で調べよう。専門学校…も、か。就職は無理だろう。



「 あのさ。吉川さ。俺が言うことでもないと思うけど。頭いいんだし。なにか、好きなことをすればいいと思うぞ。こまったら相談しろよ 」



教室を出ようとしたすぐのところで先生の言葉が後ろから降ってきた。うわぁ、恥ずかしい。相談、なんて。しない。先生に相談なんて、「私のやりたいことってなんだと思いますか」なんて聞きたくても聞けないだろ。無理がある。絶対また曖昧な苦笑いをされると思う。



背中に先生の言葉と「なにそれー」「相談とかw」「吉川さん引いてるじゃんよ」なんていう、取り巻きの笑い声が聞こえた。







◆◇◆◇






「 ただいまー… 」



「 … 」



返事が返ってこないのはいつものことだった。両親は共働きで帰ってくるのなんていつも日付が変わってからだった。父親に関しては単身赴任でずいぶんと会っていない気がする。


母親が働き始めたのと父親が単身赴任でこの家で見なくなったのはほぼ同時位だった。私が中学生に上がったころ。…5年くらい前だったと思う


朝だってたまに私が起きた時に親が出ていくのを見かけるくらいで。一人っ子で兄妹もいないから家の中には基本的に私しかいなかった。そこまで広くもない家が初めはすごく大きく感じたのを覚えている。



もう、なんの返事も帰ってこないことに違和感さえ覚えずさっさと部屋に入る。


バタンッッと少し大きな音を立てて扉を閉めパソコンを立ち上げた。


新しくもらった提出用の紙を鞄から引っ張り出し近くの学校で自分の能力に合ったものを適当にピックアップした。



「 まあ、これでいいか… 」



本当に適当なのだが、無難すぎるかもと思ったが変えられるといっていたのを思い出したからそのまま鞄にプリントを突っ込んだ。





その日は久しぶりに夢を見た気がする。


お母さんが小さい、昔の私に何か話しかけていた。


「 琶梨ちゃんはいい子だから、わがまま言わないでね。お母さんは今日からお仕事に行くから。お父さんも、暫くあえなくなっちゃうけど、いいわね? 」


お母さんの言い方はまるで小さな子を諭すようだった。もう、この子も中学生になりそうなのに。昔の私はうつむいたままだったが小さくコクンとうなずいた。



夢だったけど、夢じゃなかった。これは、実際、私が昔言われたことだった。





◆◇◆◇




「 遅れてすみませんでした、 」


渡すタイミングがつかめなかったのと、生徒がとりまいていて渡せなかったのがあったので、私が先生のところに行ったときにはもう、日が落ちていて、今度はクラスに人は誰もいなかった。


「 あー、はい、うん。お、あそこにするんだ、がんばれ〜 」


絶対思ってないだろ、おい。何でにやにやするんだ。ていうか、なんで、私の前で確認する、関係なくないですか。


「 …なんとなく、まだいまいちわかってないので 」


「 ほー…じゃあ、吉川は変更組ねー、結局どこに行くのかなー俺が卒業させるし 」


「 そういうことになりますね、え、先生が卒業させるんですか 」


「 なにそれ、先生傷つく…なんていうかさー、今までもだけどさ、吉川さぁ、冷たいよね、ツンデレ?流行の? 」


「 違いますけど…っ、何でですか 」


ほんと、この人は苦手だ、なんで、どうでもいいことを聞いてくるのか、大人の余裕?計算のうち?そこまでして、すべての生徒から好かれたい?


「 いやー、自分でいうのもあれだけどさ、俺生徒に好かれてんじゃん。結構。堅物先生たちよりも 」


「 そうですかね、嫌ってる人もいると思いますよ 」


「 そうかもしれないけどさー、でも、比較的人気者先生なのよ、俺、わかる? 」


「 そうなんですか。知りませんでした 」



何なんだ、この人。教師とかいう以前にナルシスト、か。そうなのか、、



「 だからさぁ吉川みたいなの珍しいわけ。生徒に手出す気はさらさらないけどさぁ。 」


「 手出したら、犯罪ですから。 」


「 わかってるって!…その、腫物でも見るような目止めて 」


「 え、 」


「 え、じゃないからな!?ていうか、なんで心外そうなんだよ! 」



可愛そうな目、うん。これは武器だな。ナルシストにはちょうどいい。



なんで、私はこんな常識もないような先生と会話を長々したのだろうか。不思議だったがそれは、あんまり好きじゃない女子や煩い男子と話すよりも数段楽だった。




◆◇◆◇



そのあと、季節が過ぎて。いつの間にか冬になり、それも過ぎ、あっという間に3年生は名残惜しそうに卒業していった。残った生徒たちはもうすぐの離任式で、誰が移動するのか、キャアキャア言いながら推測を語っていた。



…きっと、新任3年いた私たちの担任は移動するだろう、と。



解っていたことだ。初めから。なんで、聞き伝いの情報に私はこんなにも動揺しているんだろうか。


3日後に離任式がある。先生とは、進路提出以来ほとんど会話をすることもなかった。どちらが避けていたわけでもなく。元々、好かれていた生徒ではなかったしそんなものだろう。


ショックを受けるほどのことでもない。それでも、どこかで、心のどこかで先生が移動しないように、私たちを卒業させてほしいと思っている自分がいた。













「 えーっでは、離任する先生方から言葉を頂戴したいと思います 」



教頭が誘導を図り次々と涙を流したりしながら離任する先生たちがこの学校での思い出、この学校への思いを語っていく。



その中に担任もいる。わかっていたことだし。悲しさも、うれしさも湧いてこなかった。ただ、空虚だった。穴がポッコリ開いたような、そんな感じがした。



そんな中。女子からの熱烈な視線を受けつつ教壇に担任が上がった。



「 えーっと。色々言いたいことはあるのですが…一つだけ。みんな、学校を嫌いになるな。大嫌いでも。自分を嫌いな奴がいても。ニコニコしてろなんて言わない。唯、今座ってるとこからでいいから。前に座ってるやつ、後ろに座ってるやつ。家に帰ったらご飯を用意してくれてる親。クラスで仲よくしてくれる友達。優しい知り合い。すべての人たちに支えられてるから。馬鹿丸出しでもいい。自分を演じてもいい。」



そこでス・・・ッと息を吸ってからニカッとすごく気持ちのいい笑顔で笑い言った。




「 楽しめ。今しかないこの時間をー・・・戻すことのできない今のこのカタチを。 」







嗚呼。なんて先生らしいのだろうか。教師なのに。馬鹿丸出しはあなたじゃないか。本当に。本当に。
















変わっているけど、素敵な人だ。












消えかけた何時かの映像ビジョン




((吉川先生…!校長先生がよんでますよ…!知り合いとか何とか言ってましたけど…))
((ほんとですか?!すぐ行きます!))





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