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僕は、親友を失った。



06.16 PM4:24

今日は、シンユウを亡くして三年目。

要するに三回忌。

毎日毎日、僕は胸が潰れそうになって辛い時間があった。

でも僕は毎日頑張って学校に行った。

彼を愛していたからだ。

好きな人は出来なかったのに、シンユウのことは愛していた

胸が一杯になるし、他のやつと話しているところを見ているとちょっと嫉妬する。

でも、僕はシンユウを恋愛感情で見たことはなかった。

男同士だし、当たり前といったら、当たり前なのかもしれない。


「シンユウにもう一度逢いたいな。」

僕の声は誰にも聞こえないまま、空に消えていった

…と思ってた


「罪多き子羊よ!貴方の願い叶えてあげましょう。」

急に目の前に出てきたのは、小さな小さな天使だった。

黒い羽をして、強膜まで黒い…のに、服はどちらかといえば白く、フリルのついたものだった。

僕はこれを天使と呼ぶことにしたが、きっと普通の人は、悪魔と呼ぶだろう。


「僕の願いを叶えてくれるの……?」


「改めまして、初めまして。罪多き子羊よ。

貴方は素敵な機会に出会いました。

貴方と貴方の親友を逢わせましょう。」

天使は僕を見て嗤った。

僕は、嗤われても何でもよかった、シンユウに逢えるというのなら

もう何でもいいよ

「……貴方は、自分の罪を認められますか」

僕の視界は真っ黒の天使の羽で覆われた

眠気に襲われ、耐え切れなくなった僕は目を閉じた。






「……うん…?」

鳥の囀りにおこされた

僕はさっきまで、学校から帰る途中だったはずなのにいつものベッドで寝ていて

布団もしっかりかかっていた。

机の上に置いてある時計を見る

「・・・6月……17日…

シンユウの忌日過ぎてる…」

墓参りにいけなかった

シンユウに逢いにいけなかった


「仕方ない、今日行こう。」

今日は土曜日だし、僕は部活に入っていない。

行くしかない。一日遅れたことを謝らなくては

そういえば、シンユウってどうして死んだんだっけ。

僕の記憶に残っていない、たった一つの謎。
シンユウと仲のよかった兄さんに聞いたら”病気で死んだだろ”

と一言

シンユウは確かに病気を持っていた

けど、そこまで強いものじゃなかったはずだった。
それに、何か違う気がする。

記憶には残っていないけど

「早く思い出したいものだな」

僕は鞄に財布と携帯と、シンユウとの思い出の写真を入れて家を出た




花を買い、海の近くの寺に着いた
潮の匂いが僕の鼻を掠める

毎年忌日にしか来ないことにしていたのに約束を守れなかった

ごめんね、シンユウ。

「ううん、別にいいんだ、今年は。

僕がお願いしてのことだからね、親友。」

肩をぽん、と叩かれた

ついでに言えば懐かしい声。

三年前に聞けなくなった愛人の声

「シン・・・ユウ…!」

振り向いてみると、本当に目の前にシンユウがいた。

もうあえなくなったはずの愛したシンユウ

僕は驚きで涙なんて出てこなかった


”貴方と貴方の親友を逢わせましょう”

天使の声を思い出した。

「あれ、僕が頼んだの。

この三年間、ずっと親友のことを見てたらさ

いっつも浮かない顔して。

何でかなあって思ってずっと考えてたんだ。そしたら天使がさ”それは僕と、親友のせいだ”っていうから。

話す機会を設けてもらったんだ。」

シンユウは笑って、僕の手を握った。

僕もその手を握り返しながら笑った

シンユウ、僕のことをずっと心配してくれていたのか…?

僕、シンユウにわるいことしたかもしれない

「ごめん・・・僕のせいで、迷惑かけただろ?」

「そんなことないよ、親友。

僕は君のこと迷惑だなんて思ったこと一度もない。

その迷惑だって思うようなネガティブな性格、心配性なところ。全部大好き」

まあ、でももう少し前向きになってもいいと思うけど

シンユウは昔と同じように口元だけ緩め、話し始めた。

昔話をしにきたらしい。




僕は、昔から病弱で、何をするにも少し不自由だった。

でも、親友に心配かけたくなくてずっと軽い病気だと偽ってきた。
僕はある日君のお兄さんに殺された

受験シーズンでカリカリしていたお兄さん。少し頭のほうが病気だった君のお兄さんに僕は首を絞められあっけなく死。

特に後悔も何もしなかったから、死んだことに関しては気にしていなかったけど
親友のことは最後まで気になっていた

君は今、どうやって生きているのだろう。
僕なしでもちゃんと生きていけてるのかな?ショックで不登校になってないよね?
こんなこと考えている時は自然に口元が緩んできて、悪いことだとは思うけれどちょっと楽しかった

でも、もしも僕の代わりの親友をつくっていたら・・・?もう僕のことを忘れていたら?
そう思うと不安で不安でまさに地獄だった。

心臓が潰れそう、肺が潰れそう、泣きそう。いろんな感情に囚われ何もない世界をうろうろしていた。

真っ白な何もない世界をうろうろして、何時間、何ヶ月、何年経ったことだろう

目の前に真っ黒な天使が現れた

「あぁ、貴方ですか。成仏できてない幽霊サンとかいうの

確か親友さんのことが気になってなかなか生まれ変われないんでしたよね?」
真っ黒な天使は口角を思い切り上げて僕を見てきた。

その姿は悪魔といっても良さそうだが、僕はあえて天使と呼ぶことにした。

「親友…彼のことが心配で

あいつ寂しがり屋だし…何より僕はあいつの目の前で死んでしまった。
これが唯一の後悔だ。」

「えぇ、えぇ。そうでしょうね。

貴方の親友はショックで貴方が死んでしまった理由を思い出せていませんしね。
・・・だから、貴方と死ぬ前に話した記憶がないんですよね。」

親友は死んでても生きてても親友だといっていた。
最後にそれを伝えたのに、記憶をなくしてしまって結局いえてないことになってしまった。

これを後悔といわないで何と言うのか。

「仕方ない、大サービスですよ?こんなこと普通は出来ないんですけどー
っていうか俺の体力がもたないんでやってないだけだけど

…まあそれは置いておいて。

貴方を親友と逢わせましょう、この世界にいちゃいけませんからね。貴方は。」

生まれ変わるべき存在なのだから、天使は笑って人差し指を僕に向けた。
その人差し指のつめも真っ黒だった


「”ジョバンニはカムパネルラと逢うことは出来ませんでした、”

幸せを探してたらね

…でも、幸せなんて身近にあるもんですよ。それを忘れないで。」

天使の指は僕の眉間にとん・・・と当たり、僕を眠りへと誘ってきた。

「さあ、お休みなさい。今度目を覚ましたとき。貴方は親友と会えるようになっていますよ。」





「・・・てことで、僕は今ここにいまーす!はい、拍手」

ぱちぱちぱちと手を叩くシンユウ

驚いた、まさかシンユウのところにもあの天使がきていたなんて

そして、兄さんに殺されていたなんて。
そこに僕がいたなんて。


「…なに、親友?

何か言いたそうだね、言ってもいいよ。」

ただし、謝るのはなしね。わかってるから。

シンユウは笑って僕を抱き締めてくれた。

抱き締めてくれるのに。

温もりもあるのに。

シンユウはここにはいない。
もう三年前に死んだのだ。

もしも生き返っていたらそれはゾンビということになる。

・・・これはゾンビじゃないみたいだけど、

こんなにも、温もりがあるのに、僕はもうシンユウと逢えなくなる

「・・・っ僕、ずっと君に逢いたかった。」

「うん。」

「ずっとずっとずっと、大人になっても、おじいちゃんになってもシンユウとは親友でいたかったから」

「うん。」

「なのに、シンユウは今ここにいないなんて!」

さっきまで出てくる気配のなかった涙がぼろぼろ落ちてきた。

暖かい塩水確かに僕の目からだった。
シンユウの目から出る気配はない

「ごめんね、親友。

僕の存在は君を傷つけた。

悲しませた、

だけど、涙は出ないんだ。」

僕も泣きたいよ、ごめんね親友。

シンユウは僕のことを離して、指で涙を拭ってくれた

その優しさ大嫌いだ。


「ね、親友。

僕等が昔約束したこと覚えてる?」

あぁ、勿論。忘れることなんてなかった。

「僕等、生きてるときも、死んだときも一生親友だ」

優しい声のせいで、眠気に襲われた。

でも、ここで寝てしまったらきっと、一生シンユウと会えなくなる。
もう少しだけ話していたい


「…何か眠くなってきたね親友?」

「僕もだ、」

「タイム・・・リミットかな?」

シンユウは立って自分の墓石を撫でた。
そして、僕の持って来た花束を奪いとると花瓶にさした。

「これからも、僕のお墓にきてあげてね。約束だから」

指切りしようと出してきた指も、もう薄くてタイムリミットなことを示していた。
駄目だ、もっと話していたいのに

「駄目だよ。親友。我儘はよくない。
大丈夫、どんなに僕の存在感が薄くても、僕が親友から見えていなくても。


僕はここに存在するから、ちゃんと生まれ変わって戻ってくる。

君との話した思い出、遊んだ思い出。全部そのままだ

その、ネガティブ思考も、心配性も全部全部君だから大好きだけど。お願い


・・・もう少しだけ前向きに生きてみて。」

シンユウは鞄から黒い拳銃みたいなものを取り出した。

「僕知ってるんだからね、君が授業中に隠れてノートに死にたいって書いているのも、生きたくないって書いているのも。

君が死にたいって思うならそれでいい、君の意見を尊重するよ。

でもね、周りの人は悲しむから。君はそれを良く知ってる。


じゃあね、親友。また―――…**」

シンユウは拳銃みたいなものの口部分を頭にくっつけた。

小声でなんといったのかわからなかったけど、僕はもう少し前向きに生きなくてはいけないことがわかった


「シンユウ・・・!僕もう少し…前向きに生きて―」

―――ぱーん

嫌な予感がすると思っていた。

思っていたけど考えたくなかった。

視界は血だらけになり、眠気はピークに達していた。

血がでるくらいリアルなシンユウだったのに、何故彼はもう死んでいるのか

心臓が潰れそうだった

「さあ、親友サン?

お休みの時間ですよ。」

最後に見たのは、嬉しそうに笑う天使の顔だった。




06.18 PM4:29

僕は一昨日歩いた道を歩いていた。

人気が少なく、学校から一人で帰りたい僕にとってこの道は最適だった。
そういえば、この道で一昨日天使に逢ったんだったな

そして、シンユウと逢えたんだったな。


「この道は幸せを運んでくれたなあ」

自然と顔が綻ぶ、そういえば一人になって久し振りのことかもしれない。

ふらふらと歩いていたら誰かが急に叫んだ

「危ないよ、君!」

声のするほうを向いたとき、僕の目には猛スピードで走ってくるトラックが見えた

――ききぃっ

必死に急ブレーキをかけようとするトラック。

僕の足は木偶(デク)のぼうみたいに使い物にならなくなっていた。

あぁ、昨日前向きに生きるってシンユウに約束したばかりだったのにな。




あの日見た幻影は僕の心臓を潰した。


ジョバンニはカムパネルラと逢うことは出来ませんでした

じゃあ、また明日。親友、おやすみ。
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