夏風がふわぁっと地面を駆け巡り、私たちのもとへと届く。

様々な部活が夏の大会だのコンクールだので忙しそうに青春という名の練習に明け暮れている。
…あたしたちの部活も例外とは言えないのだが。
サッカーにもともとすごく興味があったわけではないが、あたしが小4の時3歳年下の弟が小学校に入学すると同時に地元のクラブに入ったのがきっかけだった気がする。
スポーツ観戦は好きだったし、やると上手くいかなくても、見ていると、なぜか夢中になれた。
その名残もあり、幼馴染がサッカー部ということもありで、あたしは中学校までも特別何かをしていたわけでもなかったので、サッカー部に入部。…勿論マネージャーだが。
特にやることもないと思っていたのが中々の勘違いで忙し、く夏休みだというのに、3年間学校に通うあたしは、役割を果たしている方なのではないかと…思う。

△▲△▲

「 おーい。はまさんーっ、ミーティングすっから集合だってー 」

「 うん。今いくー 」

部員総勢30人という、多いようで少ないうちのサッカー部が飲み散らかしていったドリンクのボトルを回収しながら顔を上げずに返事した。

と、行き成り目の前に夏の太陽のせいですっかり熱くなったグランドの土に日影ができた。びっくりして顔を上げると、マネージャーをやり始めたきっかけの一つとなった幼馴染がいた

「 あ、ありがとう…でも、自分でもってくから平気だから… 」

驚きながらもやんわり早くいくように促すと、少し渋った顔をして見せながらその整った顔で笑った。

「 いいのー。知恵大変そうだし。カマキリは校長によばれてどかいったし」

カマキリとは顧問の佐々木先生のことだ、顔がカマキリに…見えなくもない。
浜崎知恵はあたしの名前だ。ちなみにこの、無駄に容姿の整った幼馴染は嵩原啓太。…あたしのことを知恵と呼ぶのは、部活の中でも男女比率1:30なので此奴だけだ、あとのやつらはなぜか「はまさん」だ。

サッサとボトルを入れるとひょいっと持ち上げそのまますたすたと歩いて行ってしまう。呆気にとられながら「力持ちだったな」なんて考えいた。すると、ぼーっと座り込んでるあたしに振り返ると少し小馬鹿にしたように言った。

「 おい、遅れるって言ってたのは誰だよ、 」

「 い、急ぐ…! 」

ふわっと顔を上げて追いかけるとなぜか笑っている嵩原がいた。

だが、3Bで行われるはずのミーティングにはなかなか急ごうとせずにゆっくりあたしと歩調を合わせながら校庭を横切っていた。

「 なあ、 」

「 ん・・・?どうした? 」

前を向いてゆっくり歩きながら話しかけてくる。夏の風に煽られる結んでないセミロングの少し痛んだ自分の髪の毛が邪魔をする。顔が見えない。

「 あのさ、なんでマネージャーやってんの 」

「 …え 」

なんで。と聞かれた意味が解らなかった。「やりたいから」じゃいけなかったのかな。と。すこし、まじめな声だった気もしたが其れでもわからなかった、いや寧ろ余計に。あたしが不審な顔をしていたのか嵩原はすぐにいつもの不真面目な声色に戻り

「 あー。ごめん。何でもないわ。ほんと、知恵ごめん…ほら、急ぐぞー 」

自分から話ふったのにな…と思いながら行き成り駆け出した後姿を追いかける。

グラウンドを抜け靴をはきかえ4階に上がる。教室に入ると、エアコンが効いていて外とは違い涼しかった。


「 ええとー去年は惜しくも準決勝で負けたのですが… 」

カマキリ(佐々木先生)ののんびりした口調に少しうとうとしながらも必死にノートに書き留める。グランドだと大きな声で罵倒するのにそれ以外では痩せたのんびりした先生だ。

「 今年は、全力で優勝狙いたいと思います…で、試してみたいフォーメーションがあると、キャプテン 」

「 はい。これなのですが、 」

キャプテンといわれて立ち上がった嵩原の姿を見ながら此奴がキャプテンだったけか。なんて、のんきなことを考えている暇なんてないのだが、考えてしまうあたりなんだかな…と思う。

ホワイトボードのマグネットがちゃっちゃか移動するのを急いでノートに書き写す。

「 ここに、野坂が入って、こっちに吉川で… 」

くるくるとペンを廻してペンを滑らせている。すっかり見とれているとこっちを見てにたっと笑った。我に返った私は今度こそまじめにペンを走らせる。
ルールは大まかにしかわからないが大体のことはできるようになってきた。といても、基本雑用なのだが、マネージャーにできることと言ったらきっと、それくらいしかないんだろう。

去年、さっきカマキリが言っていたように私たちの学校は負けた。準決勝で。今年もそのせいか注目を集めている…らしい。

決勝まで行けなかったかと…なにより、強豪と噂されて優勝できなかったことが心残りだが今年は去年の悔しさも込めてみんながみんな熱心に練習している。

嵩原も、決して例外ではない。…むしろ彼が一番、といったところだ。

△▲△▲(1年前)

「 ねえ、みんな待ってるよ、戻ろうよ 」

静かな部室にあたしの声だけが無償に響く。あたしたち以外居ない小さなところに、汗にまみれた綺麗とは言えない空間に。…−−それでもみんな、毎日毎日通い詰めた場所。

1時間くらい前だろうか、負けた。惜しくもといったところで。みんな、静かにバスに乗り、学校に帰ってきた。泣いていた人さえもいた中で、嵩原は泣かなかった。何か、何とも言えない、感情を押し殺したような、そんな顔をしていた。

真ん中に置かれた青い折り畳み式の長椅子に項垂れるようにして座っている、その背中はいつもと違って小さく見えた。すごくすごく。

敗退を自分のせいだと決めつけている、小さな背中。みんな頑張ってっもできなかっただけなのに。相手がきっとすごく強かっただけだよって、嵩原のせいじゃないよって言いたいのに言えない、自分がいやだ。

何も言わずに立ち去るのが優しさだとか、声をかけて励ますのがいいとか、そういうことが全然できなかった。

何も言わずただ項垂れる嵩原にあたしが言ってあげられることなんてない気がした。


沈黙がどれくらい続いただろうか、不意に言葉を、消え入りそうな小さな声を嵩原が出した。

「 おれの、、、俺のせいだったんだ。負けたのも………………ぜん、ぶ 」

違う。違う。其れは違う。みんな、がんばった。絶対に。嵩原だって人一倍走って走って声を出して。そんなに、自己嫌悪することじゃない。

「 せ、んぱ、い、たち、は、、最後、だったんだ、だれが、何を思っても………なんにも、代わりにはならなかった、のに 」

いつの間にか震えていた声に。どうしていいかわからず今まで伏せていた顔を上げた。相変わらず、項垂れていたが、ひざには、滴が垂れていた。
試合会場では泣かなかった、強い人が。…いや、実は弱かったのかもしれない。ただ、それを隠していただけで。

「 だ、いじょうぶ、だよ。みんな、がんばった。嵩原のせいじゃない 」

なにをいえばいいかわからなかった。軽薄な、薄い、なんの責任もとれない言葉しか出てこなかった。

ふっと顔を上げた嵩原は涙で顔がぐしゃぐしゃだった。

「 う、ん・・・そうだといい。みんな、がんばった、、て、いえた、ら。でも、俺は違うけど、、や、ぱり、せんぱ、い。は最後だったし、、お、れ2年なの、に、試合、出て… 」

「ちょっと貸して」と、また、消え入りそうな声でいい頭をあたしに預けた。

(ああもう)

服が汚れるけどまあいいかな。いつのまにか、止まっていた嵩原の嗚咽に気づき、はあ…と、自分でも意味のないため息が漏れた。

▲△▲△


結局、あの後は、何事かと様子を見に来た1人の部員に頭を預けられている様子を見られいまいち不本意な誤解が招かれそうになった。

まあ、それでも、あながち間違いではないので、完全否定ができてないのが悲しい所なのだが。

今は、告白だとか好きだとか、(いや、もちろんそれも大事だが、)其れよりも、「勝った」という報告と、笑顔で喜んでいる君の姿が一番見たいと思った。

ミーティングで少し偉そうにホワイトボードを使い説明する姿は、負けたくないという、思いの表れなんだろうなと。


でも、きっと、君には、一番に喜んでもらいたいから。去年みたいに涙を流している君は見たくないから。



だから、勝ってから「おもでとう」と一緒に――――――伝えたいと思うんだ。




ひつじ雲と向日葵の笑顔

(おめでとう。大好き)
(勝てたよ。ありがとう。…俺も好きだよ)


fin*

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