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夕暮れ  


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旦那を、見た







オイラは目の前にある光景が信じられなくて何度も何度も目をこすって見る
夢なんだと思って目を開けるけど、目の前に居るのはやっぱり旦那で



「――――……旦、那……?」



あの日以来、見ることの叶わなくなった赤い髪が、眠たそうな鋭い目が、びっくりするぐらい整った容姿が



暖かい旦那の色した夕暮れの中で
旦那が息絶えたその場所で旦那は腰を下ろしていた




未練がましい、と思いながらも、旦那が死んだあの日からオイラは暇さえあればこの場所に通いつめていた


雨の日も、風の日も、ずっと


旦那はこちらを向かなかった
聞こえていないのか、それとも聞こえないのか


オイラは肺の中の空気を全部出しきる様に言葉を紡ぐ



「サソリの……旦那」



この名前を呼ぶのはいつぶりだろうか
懐かしさが込み上げ、目の前の紅い髪の相方と過ごした日々の断片が蘇った



サソリが死んだあの日から
デイダラの時は止まった


瞳に映る景色は色がくすみ
思考も流動しなくなった


しかし、いまこの瞬間
デイダラの時間は確実に動き始めた
目の前の、死したはずの相方の姿を見て――――…






そっと起爆粘土を取りだし
ありったけの想いとチャクラを練り込んで器用に形を作ってゆく


辺りは夕日で赤々と染まり
オイラと旦那の影を淡く照らし出していた


目の前に、旦那が居る
もう会えないと泣いた夜も、冷たい温もりに触れられない淋しさも全部全部、赤く染まって溶けていく



『…旦那』



もう一度、名前を呼ぶ

もう2度と呼ぶことは無いと思っていたその名前を


しかし旦那はオイラの呼び掛けに答える事はなく、ただただ夕陽を見つめていた


オイラはそれだけで満足だった
返事が無くとも、サソリの旦那が目の前に居てくれるのならと


デイダラは唇に大きな弧を作り慈しむように笑う
そして夕陽に顔を向け、チャクラを練り込み形作ったいくつかの粘土を地面へ落とした


『今から行くから…うん』


そう呟いたデイダラは迷いの無い目で印を結び
目を閉じてもう一度サソリの姿を思い浮かべる


旦那の居ないこの世界を生きていくのは苦痛で仕方なかった


でも、それももう終わり

オイラは永遠にあんたの側に行くんだ、これから



赤い赤い夕暮れの中で
まばゆい閃光がいくつも走った







夕暮


(あんたの臨んだ永久に寄り添おう)








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