その時、自分が一体その事実について角都になんと述べ、どうやってアジトに帰ってきたのか全く記憶に無かった。ただ分かるのはアジトに着いたときからちぎれた腕を縫い合わせて貰っている今現在まで、隣には角都が居る。
だからきっと角都がオイラを連れ帰って来てくれたんだと、デイダラはまるで客観的に今の状況を見ていた。角都を見ると、何も言わずただ黙々といつもより丁寧に腕の縫合をしている。
『…なぁ、角都』
『何だ』
『…オイラの相方は、誰になるんだろうな』
角都に投げかけたハズの質問は、思いの外声が小さくて弱々しくて自分でもビックリした。質問された角都は一瞬、縫合していた手を止めデイダラを見る
『…』
デイダラも角都を見つめるが、何の感情も読み取れないその目がほんの少し苦手だ。あの人も大概、感情が読み取れない目をしていたが………気が付けばそうやって何事に対してもあの人――――…相方と比べ、何かが足りなくて落胆している自分が嫌になった。いつの間にか縫合を再開していた角都の手さばきはさっきよりも数倍早く、あっという間に腕と手は繋がった
『まだ神経を繋いだばかりだ、手の指や細かい動きはまだ痺れて出来ないが少ししたら出来るようになるだろう』
角都はそう言うと立ち上がった
『ありがと、角都』
立ち上がった角都を見上げながらデイダラがお礼を言うと、少しの間角都はデイダラの顔をじっと見つめた
『…大丈夫か』
突如言われた言葉に、思わず涙がこみ上げるが気合いで押し返し『何が?』と返した。『何でもない』と言った角都はシャワー室を指差す
『シャワー浴びてこい。…泥だらけだぞ』
角都の言葉に返事は返さず立ち上がりシャワー室へと向かった。泥だらけとなった装束をゆっくり脱いで下着も全て取り払いシャワー室の中へ入ると蛇口をひねり、シャワーを出す。少し手を当てて水が温まるのを確認してから頭を濡らした
(――――…サソリが、死んだ)
ふと角都に言われた言葉を思い出した
そしてさっき繋げて貰ったばかりの痺れる手を見つめる。シャワー室にはザー…とお湯がタイルを叩く音が無数に響いた
『……馬鹿だな、旦那は』
自然に溢れでた相方に対する悪態。もしもこれを本人が今ここで聞いていたとするなら殴られていただろう。しかしデイダラは殴られてもいい、と思った。今なら、あの相方に殴られたい。そうすれば全て嘘の様な気がするから
『…あんな見え見えの弱点、誰だって分かるっつーの。うん』
ふ、と口角を上げて馬鹿にしたように言ったが、目は笑えなかった
(『相手を見ろ、準備を怠るな』)
いつも任務の前に言われていた言葉と燃えるような赤い髪が脳裏に蘇る。猫っ毛で作り物とは思えなかったあの髪に触れることはもう出来ないのだ。その事実に、デイダラはただただ否定し思考を止めるしか術は無かった。S級犯罪忍者がこんな情けない、と自分を叱責してみたが、どうしようもなく寂しくなった
『…永久の美だって言っただろうが』
――――…後々まで残ってゆく永久の美
『…それが…あんたのステータスで…だから自分も死なないように…したくせに…』
――――…死にはしない、殴られても痛みすら感じない。…この核さえ貫かれなければな
次々と蘇る相方の言葉。昨日まで、確かにあの温もりはあったのだ。冷たく温かい温もりが確かに。ザー…とシャワーから出るお湯は止まることを知らずデイダラの身体を濡らし幾重もの水滴が長い金色の髪先から滴り落ちた。ふと前にあった鏡を見た、先程までお湯との温度差で曇っていたガラスが今はクリアになってデイダラの姿を映していた
そこで初めて、デイダラは自分が泣いてる事に気付いた。青色の瞳から、シャワーのお湯とは違う二筋の水が流れ落ちている。
それを見た瞬間、デイダラは崩れ落ちた
『居る。って、ずっと側に居るって言ったじゃないかぁ…旦那ぁぁ!!!!』
堰が切れたように泣き崩れ、力の限り叫んでデイダラはもうこの世には居ない人を罵り、愛しく悔しくそして痛いほど切実に相方を呼んだ。しかしその声はけして愛しい人には届かず、シャワーから溢れでる無数水の粒がデイダラの哀しみと涙を流していった。
偽り(ここからどうやって、歩けばいいの)
(貴方の居ない世界で)