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痛み  


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任務で思わぬ深手を追ったオイラの身体は包帯と縫合した縫い目で埋め尽くされていた。
旦那に介抱してもらうのは別にこれが初めてではないが、ここまで深い傷はこれまで無かったと思う。
何だかんだいつも手当をしてくれる旦那でさえ、今回の傷の多さと深さに眉をひそめたのは数日前の話である。






『――――…デイ、ダラ』





古いベッドの上で、深紅の髪を広げた旦那は顔を歪めていた。
サラサラと落ちる傷みを知らないオイラの髪が旦那の頬を数回撫でる。





『…旦那。』





ブチ、と縫い目の弾ける音と感覚がした。
まだ麻酔が効いているのか、それとも他の箇所の痛みによって鈍っているのかは定かではないが、とにかく痛みはなかった。
巻かれた包帯がジワリと赤く染まり始める。



『バカ野郎、動くな…!!』






普段表情の変わらない旦那が珍しく眉間にシワを寄せ、まるで痛そうにオイラを見る。
その表情はいつもオイラに対する怒りなどではなく、なんだかこう、上手く言えないがとにかく、けして旦那が出すことのない表情だ。




しかしオイラは構わず旦那を押し倒した体勢を崩さない。
喉に込み上げた液体は鉄の味がする。





『…旦那。』




だけどその痛みさえ忘れるほど、今は満足感を得ていた。
10年もの間、ずっとずっと触れたかった人が今まさに手を伸ばせば届く距離にいるのだ。
オイラはゆっくり痛む腕を曲げて旦那の頬に触れる。
指先から伝わるその感覚は人間とはかけ離れた冷たく硬い感触で、爪を立てて指を滑らせればカリ、と硬い音がした。





『デイダラ、これ以上は…』






『死ぬぞ』と言った形の良い唇を凝視し、柔く口角を上げる。
自分の生死など今は問われたくない。ただ、旦那に触れたい。
オイラは体勢を低くして旦那に顔を近付けた。
黒みを帯びた赤黄色い瞳にはオイラが映る。
生きた光をたたえる事のないその瞳すら愛しくて。オイラは体温の無い唇に自分の唇を静かに当てる。
怪我にとっては負担になる体勢だったのか、またブチ、と縫合した縫い目がほつれる音を聞いた。








痛み

(恐くないよ、痛くないよ)

貴方が居てくれるから








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