NARUTO小説 | ナノ


なんだか変なの  


[しおりを挟む]

※ドリーム機能で名前を入れてくださった方が読みやすいかも知れません※




僕が暁に入って数年。


ものの見事に里を裏切り、禁忌を犯して手に入れた術を片手に、行き場を無くした僕がこの組織にたどり着いたのは必然だったのかも知れない。行く宛も、食べるものも寝床も無い状態の時に世界平和、と謳うリーダーに勧誘され、暁に入った僕は水を得た魚のように、とにかく任務をこなした。



暁は犯罪組織だけに無骨に自由だった。そんな暁のとりわけ数少ない組織内の規則(という割には随分軽く扱っているが)には、ツーマンセル行動という暁独特の行動人数が設けられている。しかし、生憎僕が暁に入れば丁度奇数になり、僕は余り者のとなる。リーダーは散々悩んだ挙げ句どういった経緯と審議をしたのかは知らないが、デイダラさんとサソリさんのコンビに付く事になった。




デイダラさんはよく喋る人で、サソリさんはその逆だった。そんな具合だから、会話は主にデイダラさんとだ。デイダラさんの話は大抵自分の芸術論に関することだが、感性のない僕からしたら面白く、考えた事もないような理屈ばかりだ。それに比べてサソリさんとの会話は任務の連携や内容の確認以外はほぼ、無い。極々最小限に留められた会話しかしたことが無いのだが、僕は何故かサソリさんに対して微かに親近感を沸かせていた。






『にしてもお前、ほんと自分の芸術論が無えよなーうん。』





任務を終え、いつも通りにアジトへの帰路の途中にデイダラさんはまさにいつも通りに僕に向かってぶっきらぼうに言った。夕暮れ時の人が踏んで出来た道には三つ、影が並んでいる。




『僕は特別人より秀でていることが特に無いので』




デイダラさんもサソリさんも、【モノ作り】に関し人よりも秀でていた。勿論それがそのまま戦闘スタイルに出ており、初めて見た時の連携は少しばかり驚いた。そんな二人の連携に果たして入って使えるのか心配していたが、何とかなっている現状にまぁ、満足はしている。


僕のいつも通りの返しにデイダラさんは唸りながら左手の口で粘土をこねていた。確かに僕がデイダラさんの立場なら、この返しをされてはとりつく島もない。
暫く無言が続き、土を踏みしめる音と地面を引きずる音と、粘土を咀嚼する音が耳に届いた。


途中で追っ手に出くわす事もなく、僕達は無事、アジトまで辿り着いた。





『今日の任務は終わりだ、うん』


『…報告書を書くぞ』


『えー』




任務を終えて作品作りに精をだそうと部屋に入りかけたデイダラさんに、低い声でサソリさんは言った。サソリさんの言葉にデイダラさんは心底面倒臭そうな表情になり眉間に皺が寄る。
任務を終えたら報告書を書かねばならない。これもまた数少ない規則のひとつだ。そうはいってもそんな重労働でもない約束事なので僕はアクビを小さくしてリーダーに用紙を貰いに行こうと足を踏み出す。



『ほら、アマネが報告書取りに行ってくれるってよ、うん』

『てめぇも行くんだよ、ボケ』



ぎゃんぎゃんと抗議をするデイダラさんを置いて、とりあえず僕は足を進める。後ろからズルズルとサソリさん特有の床を引きずる音がついてきた。僕は後ろを振り返り、サソリさんに笑いかける。



『サソリさん、良いですよ。僕が取りに行きますから』


僕の言葉にサソリさんは床を引きずるのをやめた。サソリさんの顔は四六時中眉間に皺が寄っているので今何を考えているのかよくわからない。サソリさんは暫しの間僕を見つめて背を向けた。その行動が僕の発言に対する答えなのだと解釈し、小さく頷くと僕も踵を返してリーダーの部屋へと向かう。




『リーダー、報告書下さい』

『あぁ』


ドアをノックし出てきた無表情のリーダーに言えばすぐに紙切れを渡される。リーダーは『ご苦労』と手短に言うなりさっさとドアを閉めてしまった。毎回報告書を取りに行く度変わらないその態度と行動に慣れた僕は気にすることなくもと来た道を戻り、自分の部屋へ入った。



『サソリさん、ちょっといいですか』



コンコン、と二回ドアをノックし返事を待つ。暫くして『入れ』と声がし僕はドアノブを回し部屋へ入る。数えるぐらいにしか入ったことのないサソリさんの部屋は、ドアを開けた瞬間に柔らかな木の香りがした。きっと作品である人形に使われている木が、相当良い材木なのだろう。

サソリさんは沢山の人形に囲まれた部屋で薬らしきものを作っていた。きっと新しい毒薬の類いなのだろう。少し前、デイダラさんと希少価値の薬草を取りに行くことがあったが、きっとサソリさんがお願い(という名の命令)をしたからだろうな、とぼんやり考えた。



『…用件はなんだ』


こちらに目を向けることなくサソリさんは試験管を凝視していた。デイダラさんいわく、少しでも配合を間違うとヤバイらしい。


『あ、えーと…報告書の話なんですけど大した事じゃないのでまた後で来ますね』


邪魔してはいけないと察した僕は出直そうと考えた。ドアに向かって足を踏み出そうとすると声がかかる。


『もうすぐ、終わる』


相も変わらず低い声で、サソリさんはそう言った。僕は振り向いて、なにやら試験管に見たことの無いような色をした液体注ぐサソリさんを見て、床に座り込んだ。



____…どのぐらい、時間が経っただろうか


長い長い時間のおかげか、普段の任務の疲れが出た僕は少し眠ってしまったらしい。柔らかな木材の香りを胸いっぱい吸い込んで、うっすら目を開けた。


『…起きたか』

『…?』


窓の外は陽がとっくに落ちたようで、ろうそくが灯っていた。淡い光の中、僕は目をこすりながら身体を起こす。今まで聞いたことの無いような、落ち着いた声が聞こえた。


『よく寝てたな、アマネ』


目の前のろうそくの光に照らされたその姿が、誰なのか分からなかった。ただ、暁の装束を着ている為、なんとなく察しはつく。


『えーと…サソリ…さん?』


僕は首を少し傾げながら問う。
僕の知っているサソリさんは眉間に皺が寄っていて、顔を半分以上黒い布で隠し、不思議な材質の尾を持つサソリさんだ。


それなのに今目の前に居るのは、紅い髪、白い肌に三重のまぶた、そして…


『当たり前だ、俺の部屋に俺以外の奴が来ると思うか』


…びっくりする程の、落ち着いた、声


僕は首を振り、立つ。見たことの無いサソリさんの姿をまじまじと見つめていると、サソリさんは怪訝な顔をした。




『…何だ』


『い、いや、えーと…』




僕はなんと言っていいか分からず、視線を泳がせる。
表情のあるサソリさんを見るのは、なんだか落ち着かない。
とりあえず、サソリさんの持っている試験管はまだ見たことのない奇妙な色をしている。思っていた毒薬は、出来たのだろうか。




『…この姿を見るのは、初めてだったか』



不意に、サソリさんはそう呟くと試験管を安置させておく木の代物に毒薬なる物を、静かに置いた。ろうそくの淡い光で、サソリさんの顔が照らされる。綺麗、だけど、何故か生きている感覚は感じられなくて、不思議に思った。



『…それが、サソリさんの、本当の姿なんですか?』



僕がそう問うと、サソリさんは微かに口角を上げる。




『そうだ、これが本体ってやつだ』



サソリさんの言葉に、僕は納得した。なるほど、いつものあの大きく顔を半分以上隠した姿は、サソリさんの作った人形だったのだ、と。

サソリさんは僕に近づき、その褐色の瞳に僕を写した。先ほどまでは感じられなかったが、サソリさんの本体の姿は、僕よりも背が小さかった。僕もあまり高い方ではなく、飛段さんやイタチさんと比べてももちろん僕のほうが小さい。だけどサソリさんはそんな僕よりも小さかった。
きっと、こんなことを言えば怒られるんだろうけど。



『…なんだ』


まるで僕の頭の中を見透かした様に、サソリさんは眉間に皺を寄せた。僕は慌てて首を振り手の平を見せてヒラヒラと揺らす。



『何もないです。ただ…』



【サソリさんが、綺麗だと思って】



…なんて本音を言えるはずもなく、僕は本音の嘘を吐く。


『サソリさんに時間が感じられないので』



先程から少しだけ、気になっていた事を口にする。眠りから覚めた時も、近づいて見ても、やはり、サソリさんには今を生きている時間というか、これまでの人生の時間とか、何も感じられないのだ。

コンビ(と言っても3人だが)を組んでから何度も何度も連携を使って屍を築いてきた。その時のサソリさんの戦闘スタイルや力量、判断力、全てが僕やデイダラさんよりも上なのは確実なのにも関わらず。

ずっと前にデイダラさんから聞いた話では、デイダラさんはサソリさんとコンビを組んで10年近い。デイダラさんの歳から考えて、サソリさんは僕の計算上、30手前かそれ以上でなければつじつまが合わないのだ。



『…デイダラは、話してないのか』


落ち着いた声色で、サソリさんはそう言った。僕は今度は首を傾げてサソリさんを見る。サソリさんの瞳には、光は無かった。


『俺のこの本体自体も、人形だ』




サソリさんの言葉に、僕は微かに目を見開く。人形なのに動けるのだろうか、とか。心臓はどこにあるのだろう、とか。無駄な事を考えるのは僕の悪い癖だと、前にサソリさんに言われた事を不意に思い出した。


サソリさんは静かに腕を上げ、袖をまくる。
現れた腕は球体関節で繋がれた本当に作り物の腕だった。


『…あの、じゃあ…』


僕が察したようにサソリさんを見れば、何となく口元を綻ばせサソリさんは言葉を紡ぐ。


『流石だな、やはりデイダラよりかは頭は回るな』


褒められてるのかそうでないかはともかくとして、僕は1つの仮説とその真相を容易く想像出来た。人形になる、つまりは…


『実年齢を言えば確か35ぐらいだ、ただ、この体になった時は15。そこから俺は歳を重ねてはいない、外見上はな』


サソリさんは更に『内臓なんかも全部処理を施したから、食べ物は必要ないし睡眠も必要ない』と淡々と付け加えた。


僕は何とも言えず、淡い蝋燭の光に照らされたサソリさんを見る。僕よりも歳が若い時に、自分を人形に作り変えるという発想の出来るサソリさんが信じられないと同時に、凄い人だと思った。


『それが…サソリさんの』


僕が言えばサソリさんは察して頷く。


『あぁ、これが俺の…【永久の美】ってやつだ』


僕は報告書の話なんか忘れて、サソリさんの信念や本人の思う芸術論を聞いた。デイダラさんの信念とは驚く程逆の考えを聞いた僕は、それでもどこかしらに接点のある2人を羨ましく思った。

サソリさんも珍しく(初めてかも知れない)色んな事を話してくれた。流石に自分を人形にしてしまった理由は聞かなかったけれど、何となく、サソリさんに近付いた気がして嬉しくなった。


『…アマネ』



不意にサソリさんに呼ばれて、僕は顔を上げる。丁度、サソリさんの作っている途中のカラクリ人形の材料や細かな仕込みを見せてもらっている最中だったのだ。



『?どうしたんですか?サソリさん』

『夜明けだ、今日はもう自分の部屋へ帰れ』


確かに、サソリさんの言う通り、窓を見ればもうすぐで夜明けだった。迷惑かけたのかと思い、僕は慌てて立ち上がる。そう言えば、ずっとさっきに調合していた新しい毒薬を放置させている事に気がつき、僕は自分を殴りたくなった。


『すみません…!せっかく調合とかしていたのに邪魔してしまって…』


僕がそう言えば、サソリさんは『違う』と首を横に降った。


『お前、寝てないだろ』


サソリさんの一言に、僕はただ、驚いた。
まさかサソリさんの口から僕の身体を気遣う言葉が出てくるとは思っていなかったからだ。


『俺は人形だから、睡眠は必要ない。だが、お前は生身だろう?』


【生身】という言葉が妙に生々しく聞こえる。僕が頷けばサソリさんが続けた。



『さっき話してた続きぐらい、また話してやる。今日はもう休め』


そう言って、サソリさんは、笑った。
見間違いじゃなく、確かに。口角をあげた。


僕は頷くと人形を机の上に傷つかないよう置いて、サソリさんの部屋を出た。不意にスンと自分の装束の匂いを嗅げば、爽やかなあの木材の香りが鼻を通り抜けた。



これから先、僕は昨日の夜の事をけして忘れないだろう。そして、僕は少なからず、サソリさんの側にいたいと思ったのだった。



『…なんだか変なの』


僕も口角をあげて、自室のベッドへと潜り込む。眩しい夜明けと同時に、僕は夢の中へと落ちていった。





なんだか変なの


(サソリさんの側にいたいと思う僕が)



[ prev | list | next ]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -