『何機嫌損ねてんだよ』
後ろからかかる声をオイラは無視した。
少ししてから舌打ちが聞こえ、カシャ、と無機質な音が響きだす。
時折聞こえるその音を聞きながら、オイラは昨日出来た傑作の作品よりも素晴らしい物を造ろうと、頭の中に描く形を粘土に表してゆく。
暫くしてからオイラはため息をつき、人形を修理する相方を見た。
下を向いているためか顔よりも紅い髪が視界に映る。
(……旦那はいつもこうだ)
オイラはしかめっ面をしてまた粘土に視線を戻す。
オイラがどれだけ旦那の事を想っていたって旦那はああやっていつも余暇を全て自分の芸術にあてるのだ。
存在よりも自分の芸術を否定される方が断然怒りを覚える自分が言えた話じゃあないが、それでも余暇の時間全てを芸術に当てている訳じゃない
オイラは旦那の事を見てる。
いつだって見てるんだ、なのに
(…結局好きなのはオイラよりも人形かよ)
芸術家だからって言い訳しないで
もっともっとオイラを見て欲しい
なんて、只のオイラの我が儘にしかならない事ぐらい十二分に承知している。旦那とツーマンセルを組んで、お互いの相容れない芸術論を語りあってもう10年なのだ。
一般忍を人形に造り変えてしまうだけでなく、自分までも造り変えてしまった旦那。ツーマンセルを組んで少ししてからのある日、自分の身体を見せながら瞬きもしないでただ一言【感情なんて棄てた】と言った旦那の無機質なあの瞳は、思い出すだけで背筋がゾワリと粟立つ。
そんな旦那の優しさに初めて触れた時は、驚いたし戸惑ったのは必然的な話だ。でも何だかんだ、いつも手当てや解毒をしてくれる旦那をいつしか好きになっていった。
旦那は確かに、オイラを『好きだ』と言った。
なのに、それから何も変わらない
いきなり世界が180度も変わるような経験をしたい訳じゃないし
勿論今現在のこの時間も嫌いな訳ではない。
お互いがお互いを想う中で創造する作品は、どれも今までに無かった柔らかさやしなやかさをかもしだす様になった。
分かっている。
これは只の我が儘なのだ。
だけど――――…
好きだけじゃ足りない。
確かなモノがほしい。
旦那は、何も思わないのだろうか
無表情で人形を修復する横顔を見つめ
デイダラは溜め息をついた。