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視線  


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ぼんやりと見つめる紅い髪、いつも綺麗だ。
これがオイラの幼なじみなのか…といつもサソリの旦那を見ては疑いたくなる。
柔らかな色した紅い髪に陶器のようにツルリとした白めの肌。それに加えて深みのある茶色い瞳。誰がどう見ても美人、いや男だからイケメンだ。


あぁ、神様は理不尽だ。


オイラは視線を紅い髪に向けたまま溜め息をつくと、自分の長い金の髪がさらりと頬に触れた。
毛先を少し指で挟みまじまじと見詰めると光を通し独特の反射をする自分の髪。オイラだって色んな人からこの金の髪を『綺麗だね』と言って貰える。だけどオイラよりも美しい芸術的なモノを全部持っている幼なじみを思えば誉められた気がしなかった。


視線を自分の髪からまた幼なじみの方に戻す。窓際の席の為、午後の柔らかな光がサソリの紅い髪に当たってまた違った紅い輝きを放っていた。

不意に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き皆が席を立つ。
春の麗らかな日差しのためか急に眠気が襲い、そのまま机の上に腕を組み顔をうずめた。



『おい』


上からかかる落ち着きのある声。オイラは瞳をうっすら開け顔を上げた。するとあの澄んだ深い茶色の目が自分を見下ろしていた。


『んだよ…今から寝ようとしてたのに、うん』


『次、移動だぜ』


抑揚の無い声色に無表情。完膚なきまでに美少年、という形容詞ぴったりな幼なじみは見事なまでに無愛想だった。もっと社交的で笑顔が絶えない奴だったら今より数倍はモテたかも知れないのに、まさに宝の持ち腐れだ。

その無表情をチラと見てからまた腕に顔をうずめる。確か次の授業は理科。文系のオイラにとって数学、理科といった理系科目は敵以外何者でもない。


それとは逆に、旦那はバリバリの理系、の癖に文系教科もそれなりに点数をとる。そりゃ勝ち目は無いわけで。


『…やっぱ神様って理不尽だよな、うん』

『何ゴチャゴチャ言ってんだ、行くぞ』


オイラがボソと呟けば、旦那はスタスタと教室のドアに向かって歩きだす。無愛想で無表情、おまけに冷たいときた。オイラはハァ、とため息つくといつの間にやら飛んでいった眠気を恨みつつ席を立った






『――――…この薬品を試験管に入れて…』





ホワイトボードにすらすら書かれる科学実験の化学式とその方法。頭は受け付けないが、とりあえず目で追いノートに書き込む。チラと旦那を見れば旦那も同じようにホワイトボードを凝視しノートを取っていた





『から、ここは火傷するから気を付ける事。…岩里ー分かったかー?』






真っ暗な視界の中、声が響く。
先程の眠気が戻って来たオイラはいつの間にか眠っていたらしい。ハッと瞼を上げれば旦那以外の生徒がオイラに視線を送っていた。




『ん…分かった、うん』




視線を感じながらオイラはペンを持つとホワイトボードの前に立つ教師は笑った。




『寝てると実験に失敗して自慢の髪が焦げるぞ』




化学担当教師である風影先生は優しくて面白くて生徒全般から人気だ。ふわ、と笑うその笑顔は格良いと同時に親しみ深い印象が強く残る、オイラは生返事をしてからノートを取り始めると、風影先生の視線が旦那の方へ傾く。




『赤砂、岩里に夜にちゃんと寝る方法を教えてやってくれ』




微笑みを称え、風影先生は旦那を指す。旦那は自分の名前が突然呼ばれた事に驚いたらしくバッと勢い良く顔を上げた。オイラから旦那の表情は見えないが、きっと目を見開いているにちがいない。


暫しの沈黙が流れ、旦那は鼻で笑うと『バカに教えても仕方ねぇよ』と返した。クラス全員が旦那の言葉で笑い、席の近い男子はオイラにちょっかいをかけてきた。




『よーし!!まだ実験方法の続きだぞー。次の時間が本番だから、今しっかり書き留めて置くように!』




笑いを納める為、風影先生が少し声を張って言った。
ふと旦那を見れば、風影先生を凝視している。


刹那、オイラは気付いた



旦那の耳元が、ほんのり赤い事に。
その瞬間、クラス全員の声が遠くなりオイラの胸はなんとも言えない痛みに襲われた。

小さな頃から、ずっと一緒だったのだ
無表情、無愛想と言われる旦那の微細な表情の変化を読み取る事ぐらい、オイラには容易い話で


オイラは唇を噛み締め、旦那を凝視する。
旦那は当たり前にオイラの視線には気付かず、その深い茶色の瞳に愛しい人を写していた。
もうずっと前から気づいていた
オイラの幼なじみは、オイラを見ない。
いつだって旦那にとってオイラは『馬鹿な幼なじみ』扱いだ。


オイラが憧れから、旦那に色濃い感情を持ち始めたのはごく最近。それと同時に思い知った痛みもごく最近の話で。
旦那の視線を独占するのはいつも、風影先生。



伝えたい想いは言葉にならなくて、もどかしくて、でもこの気持ちを伝えた所で、きっと何も変わりはしない。だってその瞳に写るのは、いつだって朗らかに微笑むあの人だから。




『好きなんだ、うん』



耳元が色付く背中に小さく投げかけ、これまでにない溜め息をつく。澄んだ瞳にオイラが写らないことは重々承知だ。でも、この想いは溢れてどうしようもなかった。



やっぱり神様は理不尽だ




オイラは胸の痛みを携えて、小さく泣いて笑った。







視線


(その澄んだ瞳の中に)

(オイラを写してよ)






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