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名前を呼べば  


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知っている。

確かに知っている。




目の前で微笑む蒼の瞳を見てサソリは考える。


辺り一面真っ白な世界にただ一人立っていたサソリ。

何故、自分がこんな場所に居るのか思い出せないまま周りを見渡し、時間の経過が分からなくなった頃、サソリの後ろにいつの間にか金色の髪をした青年が立っていた。



青年は何も話さず、ただただこっちを見て微笑むだけ
まるで全てを知っていて、慈しむかのような表情で。



そしてサソリはその瞳に懐かしさを感じた。それと同時にもどかしさも覚えた。知っている、確かに。でも、思い出せない。そんなもどかしさを


サソリはこの世界の様に真っ白な記憶を必死に辿ろうとした。


忘れてはいけない気がする何かが、自分の記憶の中にあるかも知れない。
そう思い考えを巡らすが頭の中には白いモヤが広がるばかり。



ふと青年を見れば、相も変わらず笑うだけ。
何よりも柔らかく何よりも優しく



それが更に懐かしさを増し、もどかしさが大きくなった
知っているのに、思い出せない



この青年の名前がなんなのか、どうしてこんなに微笑むのか
この世界で青年と自分の二人だけの意味はなんなのか



サソリは考える。モヤのかかる記憶を辿ろうとする。



知っているハズだ



根拠の無い思いだった。
もしかしたらこの懐かしさももどかしさも、只の自分の思い込みに過ぎないかも知れない


それでも、思い出したかった



ざわざわと燻る思いを懐かしさを増す温かさを
全て溶かしたい。
そう思ったから



そう思った瞬間、青年は口を開いた。
見た目に反した、少し低い声で






『旦那』




確かに、聞こえた。



その瞬間、自分の中で何かが弾け、頭のモヤが一気に晴れた





――――…あぁ、知っていた。思った通りだ




サソリは笑った。
生前で見せる事の無かった笑顔を青年に向ける。

記憶の中でも、微笑んでいた目の前の青年――――…デイダラは変わらず微笑んだままだった。



サソリは肺に空気を溜める感覚を感じながら
ゆったりと声帯を奮い、空気の波紋を造り出す。




やっと、来た。




待っていたのだ、ずっと。
唯一の生身を突き抜かれ、倒れたあの日からずっと、待ち続けていたのだ。
何より大切で、何より遺して逝きたくなかった人を。




『――――…デイダラ』



慈しみを込めてその名を呼べば
金色の髪は揺れ、蒼の瞳は水の膜を張り始める。





サソリはデイダラに近付き抱き締めると、デイダラもサソリを強く抱き締め返してきた。
サソリは圧迫感に微笑みながら、瞼を閉じる




(悪いな、忘れたりなんかして)




しかし、これからはそんな事はもう無い。
その蒼の瞳を、金色の鮮やかな色も、忘れない。
サソリは心からそう思った。





『…旦那、旦那ぁぁ…』




顔を埋めて泣き始める頭を柔く撫で、白い世界の中でお互いを認識しあった




もう一度名前を呼べば、デイダラはゆっくりと顔を上げた。
涙が次々伝う蒼の瞳を見、その美しさに微笑むと、サソリはデイダラの唇に自分の唇を重ねた。





『…デイ』





隙間から溢れ落ちたその言葉は
空気に溶けて消えていった













名前を呼べば


(泣き笑う君を、忘れない)






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