夢の中。いや、ただの夢などではなく精神世界、所謂六道骸が作り出した彼のための領域。そこに迷い込んだ一匹の黒猫はキョロキョロと辺りを見回した。
「おやおや、お客さんですね。」
「骸!」
暫く会っていない。傀儡のクロームは現在、任務で負傷中で使えない。
「寂しかったですか?」
「別に・・・。自惚れないでよ。」
「クフ・・・すみません。」
「で、ここはどこなの?」
「ここですか?」
骸は軽く微笑みながら恭弥の頭を撫でた。その手に擦り寄る恭弥は本当に猫のようだ。
「君には霧属性の炎が流れていることは知っていますね?」
「うん。」
「おそらくそれが、僕の夢と君の夢が波長を合わせて繋がった理由でしょう・・・まぁ、偶然はよくあることです。」
二人で季節外れの桜が満開の木に寄り掛かる。時折ピンクの花びらがヒラヒラと舞って今が真冬だと忘れてしまいそうだ。
「今年も・・・終わりですね・・・。」
悲しそうに笑った骸の頬へ恭弥は軽くリップ音を立てて口づける。
「そんな顔は似合わないよ、骸。君には人を嘲笑うような顔が似合う。」
「そうですか・・・?」
「うん。」
・・・と、また一人分新たな気配がした。
「何者です・・・!」
「ほぅ。」
「・・・・・・貴方でしたか。」
「・・・お兄さん?」
現れたのは骸そっくりの男。ただし馴染みの南国頭はギザギザ分け目が二つある。
「なっ・・・恭弥!こんなひとお兄さんじゃありません!」
「じゃあ誰?」
「おやおや・・・可愛らしい仔猫だ。」
「僕は仔猫じゃない、人間だ。」
「これは失礼・・・」
男はゴホンと一つ咳ばらいをして、恭弥を見た。
「申し遅れました、私はD・スペード。ボンゴレT世の霧の守護者です。」
「・・・。」
「で、用はなんですか?"おじいちゃん"」
「おじいちゃんと呼ぶのはおやめなさい!!!」
紳士な態度から一変、スペードは骸に詰め寄ると魔レンズを手に取った。
「では年増・・・ですか?」
「だまらっしゃい、骸。」
「?」
まるで兄弟喧嘩だ。
「恭弥、スペードは若作りのロリコンじじぃですから「黙りなさい!」
軽くキャラ崩壊の骸は妹のように大事にしているクロームの生着替えを見られたことを根に持っているらしい。
「で、用は何ですか?邪魔しに来たなんて言ったら殺します。」
「私はとっくにあの世ですが・・・まぁ良いでしょう。というか骸、私のことはお兄様と呼びなさいと言ったでしょう。」
「・・・は?」
何を言ってるんだコイツという顔で骸はスペードを見た。
「お前なんか去ね!」
「何故古典なんだい、骸!」
しばらくだまっていた恭弥は突っ込みを入れたあとスペードを見た。見事に鼻の下が伸びている(←オイ)。
「逮捕するよスペード。」
「ア、アラウディ!?」
手錠を片手に現れた金髪美人のアラウディ。顔立ちは恭弥とうりふたつだ。
「だ、誰だい?」
「ああ、僕かい?僕はアラウディ。ボンゴレT世の雲の守護者だよ、恭弥。」
「ふぅん。強いの?君。」
「さぁ。君こそ強いの?逮捕してあげる・・・。」
ニヤリ笑いのアラウディはまるでSM女王だ。骸はまさかすぎる展開にゴクリと息を飲んだ。スペードなどは鼻血を垂らす勢いだ。非常に気持ち悪い。
「それよりスペード、君は僕の可愛い後継ぎを狙ってる猥褻罪で逮捕だよ。」
「ほぅ、ヤキモチですか?」
「何で君みたいな下半身に節操の無い奴にヤキモチ妬かなきゃならないの?べ、別に寂しかったとか思ってないからね!?」
無駄にツンデレを発動したアラウディはあろうことか勢い余って骸に抱き着いてしまった。
「あ、アラウディ!?」
「ちょっと黙って骸。」
骸はいきなりのことに顔を赤くして慌てまくっているが・・・。
「アラウディ、骸から離れなさい!」
「やだね。」
「むく、ろ・・・」
恭弥はうるうると涙目だ。
▽▽▽▽▽
「・・・ん・・・ひば・・・雲雀さん!」
綱吉が叫んだ。どうやら無理矢理起こされたらしい。今は会議中。綱吉が黒い笑みを浮かべたが、恭弥がいきなりポロポロと涙をこぼし始めたので綱吉はそれを引っ込めた。
「おやおや」
「!!」
「綱吉君に泣かされたのですか?」
先程まで夢の中にいた恋人が目の前にいる。
「な、んで」
「あ、おじいちゃん達からプレゼントです。三日ほど実体化する力を貰いました。」
それから三日間、無理矢理に休暇を貰った二人がいちゃつく姿が見られたとか。
(な、アラウディ・・・(赤面)
(君も良いところあったんだね、スペード)
(・・・そ、そんなに擦り寄らないで下さい・・・っ)
(惚れ直したよ。)