Short | ナノ


「ヌフフ・・・フハハハハハハハッ・・・!」


いきなり笑い出した彼に僕はゾワリと背中に悪寒を感じた。


「・・・どうなの?嘘、だよね?」
「いいえ、嘘ではありませんよ。ヌフ、君にだけはバレない自信があったのですが・・・、ミケーレ・フェデリカ。」
「はっ、」


突如現れた彼の部下。
霧部隊なだけあって、フェデリカは完璧に壁と同化していたらしい。


「これは・・・どういうことです?」
「D様、これは、」


デイモンは効果音が付きそうな程、にやりと笑うと手袋を付けた指をパチンと鳴らした。


「ぐぁぁっ、」
「私は、貴方に任務を頼みました・・・が、貴方は遂行出来なかった。・・・ヌフッ、使えない貴方は、もう要らないんですよ・・・」


デイモンは苦しんでいるフェデリカに向かって、もう一度指を鳴らした。すると、彼は何か(多分幻覚だろう)に貫かれて生き絶えた。


「任務って、何?」
「ああ・・・任務、ですか。彼に与えた任務は私の計画をバレないよう工作すること。そして、アラウディ、君の監視です。」


ああ、僕を捕らえたのは目の前のコイツだったのか。


「自作自演だったの?」
「えぇ、その通り。ですが、」


・・・私は君を、逃がさない。


耳元で囁かれて頬に熱が集中した。僕はこの状況でさえこの男を愛しいと思う自分が信じられなかった。
抵抗しなければ、と警鐘が鳴る。

「いやっ、離して、」
「ヌフフ、何故離さなければならないんでしょう。」


押し倒されてしまった。
いくら同じ男とはいえ僕より大きい男の力に、この拘束付きの腕では敵うはずもなく、抵抗しようにも出来ない。


「ほら、いつも通りじゃありませんか。」
「いやだ、やめてよっ、ぁっ」








犯された。

無理矢理。


「偽物、だよね、」


あんなデイモンは初めて見た。だからこそ偽物だと信じたかった。
ドロリと白が太股を伝っている。アイツはもういない。いつものように優しく後処理をしてはくれなかった。
これじゃまるで性奴隷。
涙が頬を伝って。それがあまりにも滑稽で、自分じゃないみたいで、自己嫌悪。

きっとこれは悪い夢なんだ。

僕はそう思い込むことにした。






僕の腹は空腹を訴えているからして、恐らくかなりの時間が経過しているのだろう。
僕は白いベッドから起き上がって、白い冷蔵庫を物色しに行った。
中に入っていたのは甘いもの。多分、アイツが置いて行ったに違いないチョコレートケーキ。
ブランデーの香りも少ししている。まぁ、ちょっとした大人のケーキといった所か。一口食べてみると、それなりに美味しかった。
ケーキに使われているような、いつもは酔わないような酒量であるが、僕はそれに酔ってしまいたかった。
ホールケーキの四分の一を食べ切って、残りは冷蔵庫に戻した。


「ヌフ、食べてくれたんですね・・・チョコレートケーキ。」


後ろから聞こえた声に振り向くと、アイツが優しく微笑んでいた。


「お味はどうでしたか?アラウディ。」
「それなりに美味しかったよ。きっと・・・手作りだろ。君は何でも器用にこなしてしまうんだから。」


僕もありがとうの意味を込めて、ふわりと笑ってみた。
そして、皿を片付けていた僕がもう一度振り向くと、そこに奴はいなかった。




嗚呼、僕が作り出した妄想か。




そんなことが他人事のように頭を通り過ぎた。
でも、ケーキはきっと手作りなのだろう。そういえば、誕生日によく作ってくれたものと同じだった。


「会いたい、な・・・。」


誰もいない白い部屋に声はよく響いた。

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