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六道が帰宅した。雲雀は横たえていた身体を起こすと、その姿を見た。思えば、六道はいつも夜になるといない。
というよりも、どのくらいの時を、この屋敷で過ごしたかがわからなかった。


「今日で二週間程です。」


そして六道の姿を見たのも久々かもしれないという気さえしてきた。雲雀は

二週間もか・・・仕事は大丈夫だろうか・・・

と他人事の様に考えていたが、六道が自分の傍らにある"ハンケチ"にくぎ付けになっているのを見て、思い出したように問おた。


"このハンケチは・・・何の意味があるの・・・"


六道は一瞬驚いたような顔をして雲雀を見たが、次の瞬間には懐かしむような顔をした。


「酒でも・・・如何です?」


何処からともなく取り出した日本酒と杯に雲雀は頷くと、満開の夜桜の見える縁側に腰掛けた。


「何処でそのハンケチを・・・?」
「・・・地獄絵図の部屋から。」
「そこにあったのですか・・・。」


雲雀がそのハンケチを六道に手渡すと、彼は愛おしそうにそれを一撫でした。


「・・・覚えていますか、初めて会った日のことを・・・。」
「・・・下田屋の、かい?」
「違います。」


月を映した酒を雲雀は一口飲んだ。


「・・・あれは、僕が・・・五つ程の頃でした・・・。」










「化け物だよ、あの子狐。」
「ご武家様の後継ぎじゃないか。人間に見えるけど・・・。」
「見てご覧よ、あの目を。・・・可愛い顔をしてるが、人を呪い殺すそうだよ。」
「本当にかい・・・?」
「ああ・・・あの隣の子もそうだ。確かあの子も化け物で、・・・猫に姿を変えるらしい。」


僕と猫を見る目は何時だって汚いものを見たようなそんな目だった。





「ーー、」
「だいじょうぶですよ・・・ねこ。ぼくのとうさまがなんとかしてくれるはずです。」


そのとき僕は別の名前だった。それに、父は人間で素晴らしい人格者だった。
大きな土地を持ち、財もあった。所謂、僕は上士の息子。剣の腕だってそこで鍛えられたものだ。


「ーー、こちらへ来なさい。猫、君もこちらへ。」
「とうさま!」
「ーー困ったことになった。・・・お前を、調べることになったのだ・・・猫、君もだ。」


猫の両親はとっくに他界していたので、僕の父が一緒に育てていた。


「お前達はこれからは自分で生きなければならない。・・・さぁ、行きなさい!」


父は僕と猫を裏口に連れて行くと、僕にいくらかお金を持たせて外に出した。

僕は捨てられた

その時はそう思った。だが、今思えば父は幼い僕らの命を救ってくれたのだ。


僕と猫は歩いた・・・。父が持たせてくれたお金も底を尽いたが刀を売る訳にもいかず、空腹で死ぬ間際だった僕は、汚い道端に倒れていた。


「・・・だいじょうぶかい?」


現れたのは僕らと同じくらいの年頃の男の子だった。


「けが、してる・・・。」
「ぼくにさわらないでください。・・・しにますよ。」


脅しては見たものの彼は決して僕を恐がるそぶりは見せない。彼は僕に待っているように言い、近くの屋敷に入って行った。


「・・・。」
「はい、ごはん。」


現れたのは何日か振りで見る、白いご飯だった。


「きみ、なまえは?」
「-、・・・いえ、ろくどうむくろです。」
「ぼくは、ねこ。」
「ふぅん、ぼくはひばりきょうやだよ。」


幼いながら僕は一瞬で彼を手に入れようと決心した。


「コレ、あげる。」
「・・・?」
「ハンケチだよ。おなかがすいたらこれをうって、ごはんをかうんだよ。」





「その時もらったのがこのハンケチです。」
「・・・君はあの時の・・・!!」


雲雀は途端にあのときの光景を思い出した。


「・・・僕は、あのとき君に・・・一目惚れしたんだ・・・だから助けた。」
「やっぱりあのときの"ひばりきょうや"は君なんですね!?」
「・・・うん。」


六道は恐る恐る、だけれど力強く雲雀を抱きしめた。雲雀もまた、彼の背に手を回した。


「やっと会えました・・・貴方は僕の命の恩人です!・・・化け物である僕の!」


六道は年甲斐も無く涙を零す。始めの冷たさはどうやら仮面だったらしい。


「おい、泣きみそ。」
「泣きみそはお前でしょう、猫。」


何処からともなく現れた少年は、六道の腕から雲雀を奪うと彼にしがみついた。


「まさかお前が、あのときの、そのー、あー、なんだ・・・お、恩人だったんだな。」
「あの、さ、君・・・いくつだい?」


いかにも少年に見える彼に疑問をぶつけてみた。六道の話だと、少年は六道と同い年ということになる。


「六道と同じだ。」
「えぇー!!!!」
「見た目は可愛くてもだまされちゃ駄目ですよ、雲雀。」


雲雀は、しがみついていた少年(大人)を引きはがした。叫んでしまってキャラ崩壊なのはこの際仕方ないのかもしれない。


「なんだ、抱き着いたって良いだろう。一緒に一晩過ごした仲だろう。」
「!!」
「六道、誤解だよ!僕は黒猫と一緒に寝たんだ。」
「猫といえば、目の前の泣きみそを指すと知ってて言ってるんですか・・・?」


六道から黒いオーラが流れ始めたところで、いつの間にか少年は去っていた。

"ありがとう"

と一言残して。





「桜ははかないからこその風情だよ・・・。」


雲雀は後ろから抱き着いた六道をそのままに、満開の季節外れな桜を見て呟いた。
幕末の血生臭い世の中だが、この屋敷の中だけは平和な夜明けが訪れようとしていた。


ーendー

なんだか別けて書いたら意味不明になった(笑)
幕末設定が上手く使えない管理人、乙ww

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