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「で、猫・・・何故お前が朝食を食べているんです?」


六道は盛大に溜息を着いた。少年はさも当たり前だと言うように、器用に箸を使って鮭を突いている。


「僕は昨夜、雲雀の疑問に答えてやった。ツケは直ぐにでも清算すべきだろう。」
「頼んだ覚えはありませんよ。」
「それでも貴様は僕を煩わせた。ペットのしたことは飼い主の責任だ。」
「僕はペットじゃない。」


雲雀は少年へと飛び掛かろうとしたが、少年が横目で彼を一瞥すると一瞬で身体が動かなくなってしまった。雲雀は悔しそうに唇を噛んだが少年は白飯を咀嚼した。


「・・・っ」
「・・・やはり、君は猫又の影響を強く受けているんですね。」
「ああ、そうかもしれない。六道は、あの能力を使えるんだろう?」
「えぇ・・・使えることには使えますが・・・少々、疲労感が残る。」


雲雀は身体を動かせるようになったが何の話か解らず、首を傾げた。


「ところでソコの雲雀にはどの程度まで教えたんだ?色魔。」
「おや、どういう意味か解りませんね。」
「フッ、頭だけは使えると思っていたのだが、僕が間違っていたようだ。」


少年は朝食を食べ終え、立ち上がった。


「六道、教えるのが面倒なら・・・僕が直々にソイツへ教えてやっても良い・・・どうだ?」
「君には頼みませんよ。僕は食べかしに手を出すほど飢えてはいないのでね。」
「そうか。」


少年は見た目に似合わず、悪人ばりの笑みを浮かべると"また来る"とだけ言い残して去って行った。

「教える教えない・・・って何の意味だい?」
「・・・あの黒猫は可愛らしい見た目に反して、下手すると僕より凄いですから、せいぜい気をつけなさい。」
「・・・。」


都合の良いようにはぐらかされ、雲雀はムッとした表情を浮かべた。


「君は、食べないの?」
「はい。昨夜食して来ましたから・・・。」


六道がどのような意味で言ったかは解らないが、昨夜遅くに出掛けたのは確かだった。
六道は雲雀に近寄ると、その猫毛に手を伸ばし優しく梳いた。だが雲雀は近づいてきた彼から、血の匂いがしたような気がした。


「六道・・・あの桜は・・・?」
「ああ、先程言っていた能力の一つですよ。」
「・・・疲れないの?」


雲雀は疲れる疲れないの話を思い出して口にしたが、何故一瞬でも六道を心配する気持ちになったのか、わからなかった。


「あの程度なら平気です。」
「・・・そう。」


雲雀が朝食を終えるまで待っていた六道は、彼が箸を置くと直ぐに席を立った。


「仕事に行きます。君はこの屋敷内にいて下さいね・・・。何処を見ても構いませんから・・・ああ、但し死にたく無いのなら不思議な扉が"現れ"ても開けないことです。」


そう言って去った六道。軟禁された雲雀は"どう過ごしたものか"と考えていた。
だが、何処を見ても良いと言われたため適当に屋敷内を見て回ることにしたようだ。







「不思議な扉・・・なのか・・・?」


雲雀がある廊下に立っていると、不思議な扉が文字通り"現れた"。黒く、西洋のような装飾の施された大きな扉。中からは叫び声のようなものが聞こえた。
扉へ触れようと手を伸ばすと怪しい文字が現れた。


"汝、地獄へ堕ちる者か"


恭弥は反射的に"違う"と一言漏らした。


"用が無いなら帰り給え"


文字は消えた。此処が何処へ通じる扉なのかは解らなかったが、開けるべきでないのは確かだろう。第一に、扉の向こうからは冷気しか感じられなかった。
それこそ、六道が言っていたように死んでしまうかもしれないという気さえしてくる。
雲雀はその向かいにある部屋の襖を開けた。不思議な部屋だった。壁一面に地獄絵図のようなものが描かれており、ポツンとおかれた机には、触っただけで呪われそうなモノが沢山置いてある。


「・・・この、ハンケチ・・・。」


が、そこにある一枚のハンケチが目に止まった。何故だか懐かしさを感じる。










雲雀は自分が与えられた部屋に戻った。あのハンケチを持って。


「・・・黒猫・・・。」
「今朝ぶりだな雲雀。」


黒猫はやはりあの少年に変わった。彼は猫の様に目を細めると、雲雀の手元のハンケチを見た。


「懐かしい・・・。」
「・・・?」
「わからないのなら構わない、忘れろ。」


そう言った少年の顔が一瞬寂しげに歪んだのを雲雀は見た気がした。雲雀は彼に近寄り、頬に触れた。


「!!」
「泣い、てるの?」
「・・・泣いてなどいない。」


少年はびくりと肩を揺らすと黒猫に姿を変え、去って行った。何をしにきたのかは解らないが、雲雀はその後ろ姿をいつまでも眺めていた。

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