仕事後のチョコレートは格別だ。本当に美味しい。一口でとても幸せ気分だ。しかし急激な眠気に襲われた。徹夜し、長時間のデスクワークを終えた僕は疲れていた。睡眠を取るべく仮眠室に向かう。本当に眠い。
「骸様、お疲れ様です。」
「おや、クロームもお疲れ様です。後の仕事は明日にしましょう。僕も休みますからお前も部屋に戻って休みなさい。」
「はい、骸様。おやすみなさい。」
僕の長時間労働に付き合ってくれたクロームに休むよう伝えて本当に眠る体制に入る。しかし夜には守護者"強制"参加の新年会がある。だから部屋には戻らず仮眠室にいる。
僕には休む時間も無いのか。
と甚だ疑問だが、アルコバレーノの命令では仕方が無い。
だがうつらうつらとしていた僕へ追い撃ちをかけるように、あの小憎たらしいチャイムが鳴った。
『あー、あー、えーと、骸、仕事中悪いんだけど、今すぐ俺の執務室に来てくれない?』
所謂、我がボンゴレファミリー、十代目ボスのアジト内放送である。僕は聞かなかった事にして、もう一度心地好い睡魔に身を委ねようとした。
『あと、お前の大事な人の一大事、だから。早く来たほうが良いぞ。』
恭弥の一大事!?
恐ろしい程の眠気が一瞬にして吹き飛んでしまった。僕は直ぐに起き上がり、霧の守護者の執務室を飛び出した。
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「はぁっ、はぁっ、何事です!?」
「骸!」
任務中に傷でも負ったのかと、嫌な考えばかり頭に浮かべながら全速力で走ってボスの執務室まで来た。と、そこには落ち着いた様子の沢田綱吉が。無性に腹が立つ。
「何があったんです!?恭弥は大丈夫なんですか!?まさか、怪我でも・・・っ!?」
彼の両肩を引っつかんで叫ぶように聞く。
「おい、骸・・・そんな泣きそうな顔すんな。雲雀さんは大丈夫だからさ。」
「は?・・・ふざけないで下さい。どれだけ僕が焦ったと・・・」
思ってるんですか。
僕は一気に身体の力が抜けて、へなへなと床に座り込んでしまった。
「や、大丈夫というかなんというか・・・その、さ。」
「?」
「見てもらった方が早いね。雲雀さん。」
「・・・なぁに?つなよし。」
奥の部屋からとてとてと可愛らしい足取りで、小さな男の子が現れた。見た目は、五歳くらいだろうか。
「・・・まさか、」
「うん、そのまさかなんだ。」
この子、二十年前の雲雀さんらしいんだよね。
「・・・あの、子牛・・・見つけたらぶっ殺してやる・・・!」
「ちょ、骸、キャラ崩壊してるからなっ・・・?」
「ねぇ、」
二十年前の恭弥らしい、小さな男の子が僕の服の裾をツンツンと引っ張る。
「あなたはだれ?」
「・・・・・・ぐはっ」
勢い余って鼻血を吹き出してしまった。いたいけな恭弥の上目遣いは相当の破壊力だ。
「わっ、鼻血!だ、だいじょうぶ・・・?」
「だ、大丈夫ですよ。」
鼻血をティッシュで拭きながら、彼の目線に合わせてしゃがんだ。
「おなまえは?・・・あ、さきにきょうの、おなまえいわなきゃね。・・・ひばりきょうや、5しゃい。」
「僕は六道骸です、"きょうやくん"。」
「ろくろう、くろ・・・?」
「違います、六道骸です。・・・あー、言いにくいですかね。骸です。」
「むく、ろ・・・?」
「そうです。」
首を傾げながら名前を呼んでくれた"きょうやくん"に内心息を荒kゲフンゲフン、微笑みながら彼の頭を撫でてみた。すると花の様な笑顔を浮かべて抱き着いて来るものだから、もう可愛くて仕方がない。
「その様子だと平気そうだな。新年会までの今日残り一日、休みにしてやるから、その子の面倒みてやってくれない?」
「言われなくてもそのつもりです。」
「むくろっ」
会ってから短い時間しかたっていないが、懐いてくれたらしく、今の彼では考えられないくらいに甘えてくる。
「頼んだからな、骸。」
「ではきょうやくん、行きましょうか。」
「うんっ」
アジト内を手を繋いで歩く。ファミリーの人間ヒソヒソ話をしているが、この際無視だ。多分僕らの仲はとっくに知れているようなので、
隠し子か?
などと言った話がされているらしい。
「ね、むくろ、きょうをどこにつれてくの?」
「僕の部屋ですよ。」
「むくろの、おへや?たのしい?」
「さぁ・・・それはどうでしょう?君次第ですね。さて、着きましたよ。」
幼稚園児のスピードに合わせて歩いていたら、結構時間が経ってしまった。ああ、眠気は何処へやら。
「そこに座っていて下さい。」
「・・・んしょ、むくろ〜、」
「何ですか?」
「とどかない。」
僕の執務机の前にある椅子に座るように言ったけれど、小さな彼には届かないようで、必死にジャンプしながら乗ろうとしている。
可愛い。いや、本当に。
普段は子供嫌いの僕だが、恭弥の子供時代だけあって可愛らしい。
もし、僕達に子供がいたなら出掛けた恭弥を待って留守番している父子-おやこ-はこんな感じなのかもしれない。第一、僕には両親がいないので、よくわからないが。
そんなことをかんがえながら、僕は必死な"きょうやくん"を抱き上げて椅子に乗せてやる。
「・・・。」
だが、彼は頬っぺたをぷぅと膨らまして不機嫌体制だ。
「ど、どうしたんですか?」
「ん、」
今度はリーチの短い腕をめいいっぱいに広げている。
可愛いが、やはり子供の行動は訳がわからない。
「ん〜」
「?もしかして・・・抱っこ、ですか?」
こくりと頷いた彼は腕を伸ばしてくる。やはり、はっきりと言わないところが恭弥らしいと妙に納得してしまった。
そして彼は我が物顔で、すっぽり僕の腕の中に収まっている。頭を撫でてやると更に擦り寄ってきて可愛い。
「・・・子供、ですか・・・。」
ぽつりと呟くと、彼が見上げてきて頭にはてなマークを浮かべている。なんだか悲しそうにも見える、気がする。
「・・・いえ、なんでもありませんよ?さて、何して遊びましょうか。」
「んーとねぇー」
先程とは打って変わって、嬉しそうな顔を浮かべる彼に、僕も自然と笑みを浮かべる。
「えほん、えほんよんで〜!」
「良いですよ。」
綱吉に借りた絵本(なんで持ってるんですか)を何冊か出す。
「きょう、しらゆきひめがいい。」
「わかりました。・・・えーと、昔々、ある王国に・・・
・・・白雪姫は王子様と結婚して幸せに暮らしました。おしまいです。」
すっかり反応の無い、眠ってしまったきょうやくんを抱き上げて、仮眠室へ向かう。
「寝顔、」
やっぱり今の恭弥と変わらないみたいです。
ゆっくりとベッドに彼を寝かせて、その小さな唇にキスをした。
「!!」
途端に彼の周りは白い煙に包まれて、それが晴れると元に戻った恭弥が眠っていた。しかし次の瞬間には、長い睫毛がふるりと震えて美しい黒曜石の瞳が現れた。
「・・・王子様のキスで元通り・・・ね。」
「?恭、弥」
「おはよ骸。」
「お、おはようございます。」
「ね、一つ聞いていい?」
「ええ。」
君は子供が欲しいの?
「・・・?」
恭弥に問い掛けられた質問が一瞬理解出来なかった。黙ってしまった僕を見て、彼は段々と表情を曇らせてしまう。
「あれ、さ・・・僕が考えたんだ。君を驚かせようと思って・・・。でも、あんまりたのしそうだから・・・僕はどんなに頑張っても赤ちゃん産めないし、」
俯いてしまった恭弥を抱き寄せてキスをした。泣きそうな恭弥は見ていられなかった。
「・・・僕は子供が授かるなら、もし君との間に子供が授かるなら欲しいと思います。」
僕は腕の中の彼が一瞬震えたのがわかって、抱きしめる腕の力を少しだけ強めた。
「けれど、僕は・・・君だけいてくれれば良い。」
「・・・。」
だから、泣かないで・・・。
そう言って頭を撫でてやる。そして顔を上げた彼の涙を舐めとった。
「それに、たとえ僕の子供だとしても君を取られるのは嫌ですから。」
「・・・ぷっ、君って馬鹿だね。」
今度は彼から抱き着いてきた。
『えーと、これから新年会を始めます。守護者は全員集合してね(黒)』
「チッ、良いときに。」
「さて、行くよ・・・王子様?」
「!」
不安だったんですね、恭弥。僕は君だけいてくれれば良いんです。さぁ、参りましょう。
僕のお姫様。
-End-
はい、厨二病の骸氏は想像通りにカッコイイ台詞を捨て去ってお行きになりました。
恭弥たんは、了平さんちの赤ちゃんを見てこの企画を思い付いたようであるという裏設定ww