昔々、並盛村というところに雲雀恭弥という貧しい男がいました。彼の趣味は群れを為す、邪魔な者共を咬み殺すことです。トンファーを使い、美しく戦う姿はこの並盛村でも大変評判でした。そんな彼が歩いていると図体がでかく、フランスパン頭の学ランが村の子供達にイジメられています。彼はその群れを見つけてニヤリと笑うと駆け出しました。しかし、いきなり村一番の強さを誇る彼が飛び出して来たとあれば、子供達は直ぐに逃げ出してしまいました。
「あ、ありがとうございます!恭さん!」
「何故僕の名を?」
「お、俺の住むところでは有名な名でしたので。」
「ふぅん。」
一言返事をすると彼は立ち去ろうとしました。しかし、学ランが必死に引き止めます。
「お礼にハンバーグを振る舞いたいので、俺の背中に。乙姫様もお喜びになるでしょう。」
その学ランは恭弥を背中に乗せるとまっすぐ海へと向かいました。
「さぁ、このチョコレートを食べてください。」
「僕は甘いものが嫌いだよ。」
「左様でございますか・・・ですが、食べて頂かないと・・・。」
学ランがあまりにもしつこくてムカついた彼はパクりとそのチョコレートを食べました。それを確認した学ランが海にザブザブと入って行きます。あーら不思議、海に潜っているのに息が出来るではありませんか。学ランー亀の草壁ーさときどき"蛸"に邪魔されつつも海中を進みます。しばらくそうしていると、無駄に華やかできらびやかな城が現れました。まるでラブh・・・ゲフンゲフン・・・どこぞの宿泊施設のような見た目です。
「おや、草壁。僕はチョコレートを買ってこいと言ったはずですが・・・?」
建物から現れたのは美しく鮮やかな着物を着た男でした。
「チョコレートは確かにありませんが、この背に乗っているのは乙姫様が所望召された雲雀恭弥ですよ?」
「ふん、この期に及んで嘘を吐きますか?ええわかりました、君にはお仕置きが必要なよ・・・!」
恭弥は訳がわからず、辺りを見回していましたが、やがて乙姫様(男)と目が合いました。良く見ると彼の目は宝石のような紅と碧でしたので、恭弥はしばらくそれにみとれていました。
「ようこそ、雲雀恭弥。さぁ、望みのハンバーグを用意させましょう。・・・それと、そんなに見つめられたら・・・穴があいてしまいます・・・。」
恥じらうように俯いた乙姫様に恭弥は不覚にもドキリとしてしまいました。
「さぁ、中へお入りなさい。」
城の扉を開くと中からは甘い香りが漂いました。
「草壁、ボサッとしてないで、ハンバーグを頼みましたよ?」
ニコリと胡散臭く乙姫様は笑うと、恭弥と共に龍宮のなかへ入って行ってしまいました。
▽▽▽▽
「さぁ、どうぞ。龍宮へいらっしゃった祝いですよ。」
「うん。」
ハンバーグを一口食べた恭弥はあまりの美味しさに目を見開きました。
「どうです?」
「美味しいよ。」
「クフフ・・・それは良かった。」
その後も鯛(クローム)や平目(千種)、蛸(犬)の舞を見たりとそれはそれは楽しく素晴らしい時間でした。
「さて・・・ここにはたくさん部屋があるのですよ?」
乙姫様は扉近くにある梟の置物のダイヤルを回しました。すると梟の目が青から灰色に変わりました。彼が扉を開くと、純白の雪の積もった世界が広がっています。確かにそこは出口の扉であり、開くと海中が広がるはずでした。しかしそこは冬の世界です。彼が目をぱちくりさせている間に乙姫様は再びダイヤルを回し、次に現れたのは秋です。紅葉で赤く色付いた葉がヒラヒラとまっています。次は春の間。
「乙姫、ここが気に入ったよ。」
「それは良かったです。僕も退屈していたのですよ、中々客人は来ないものですから・・・。」
そう微笑んだ乙姫様の顔は笑顔なのにも関わらず、どこかはかなげで消えてしまいそうでした。恭弥は彼の頬に手を添え今にも泣きそうにしている目元を撫でます。
「慰めてくれるのですか?」
「・・・。」
「ありがとうございます。」
最後の色へとダイヤルを回して扉を開くとそこは寝室でした。
「大変言いにくいのですが、ここは本当は遊郭なのです。」
「ふぅん。」
乙姫様は恭弥の手を引いて中に入ると扉に鍵をかけてしまいました。目の前には凄い色をした布団が一組。
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恭弥が目覚めると、隣には乙姫様の美しい寝顔がありました。昨夜、結局恭弥は女役であったので腰には激痛が走ります。
「・・・ん、起きていらっしゃったのですか?」
「うん。」
乙姫様が起き上がり、恭弥の髪を優しく梳きました。
「ここが気に入ったよ。」
「ありがとうございます。」
特に春の間は恭弥のお気に入りです。
いつでも咲いている桜とあの心地好い風はここが海の底とは思わせません。
それから何日も、何ヶ月もたったある日のこと、恭弥は自分の1番好きな並盛村のことを思い出しました。
「本当に行ってしまうのですか?」
「僕は並盛の秩序だからね。」
「ならばこれを・・・」
乙姫様が悲しい顔で取り出したのは、豪華な玉手箱でした。
「お土産に持ってお行きなさい。」
「ありがと、骸。」
「戻ってきたいなら、草壁を使って下さい。待っていますよ。」
「うん。」
恭弥は再び草壁の背中に乗って、地上へと戻って行きました。
「恭さん、その玉手箱は開けてはなりませんよ?」
「それは僕に指図したいのかい?」
「い、いえ違います。乙姫様からの伝言です。」
ならばどういう意味だと恭弥が草壁へと問えば
「それは乙姫様からの"僕を捨てるならば、君の年月をお返しします。"ということなのです。わからなければ、その辺の村人に問うてみると良いでしょう。」
「ねぇ、そこの君」
「なんだね・・・」
「この村の雲雀恭弥を知っているかい?」
「ああ、百年前の伝説だな、知っている。確か、ここから北へいくらか進めば彼の墓があったはずだ。当時はこの並盛の秩序だったらしいな。」
海の底で数ヶ月と思って過ごしても、地上では実は百年もたっていたのでした。しかし、年月を返すとはどういうことかがわかりません。恭弥は、確かめようと玉手箱の蓋に手を掛けました。
「ま、待って下さい!!開けてはなりませんっ!!」
しかし恭弥はそれを開けてしまいました。もくもくと煙が上がり、それらが消えると玉手箱には・・・
「僕の、僕のブロマイドがぁっ!!!!」
乙姫様のブロマイドが入っていました。もう一段下には恭弥の写真も入っています。
「君の年月はこちらですっ」
乙姫様は渡す玉手箱を間違えていました。
「いらないよ。君がこっちに住めばいい。」
「・・・!!」
そして恭弥は並盛の秩序に返り咲き、乙姫様は殺し屋に。二人はいつまでもいつまでも、仲良く暮らしましたとさ。
おしまい。
しょうもない話で申し訳ない。