気がつけば辺りは暗闇。見渡してみても、さっぱり見覚えがない。おれ、どうやってここまできたんだっけ。ここまで考えて妙な感覚に襲われた。この感覚は一度味わったことがある。あの時は確か通りすがりのマシューに助けられたんだった。くそう、思い出して何だか腹が立ってきた。でも、やばい。今回も偶然誰かが通りかかって食べ物を恵んでくれるなんていう保障はどこにもない。大体なんでおれがこんな目に…あぁ、そうだった。突然消えていなくなったマシューを探してたんだ。くそう、見つかったら絶対何か仕返ししてやる、なんて思いながらおれは意識を手放した。
で、次に目を覚ましたら目の前に見たことのない女がいて、なんでかおれの名前を知っててどうやら助けてくれるらしい。馬鹿みたいにでかい建物の横を通りながら女の後ろを歩いていく。何があっても大声出さないように、なんて釘を刺されて案内された場所には。
「げっ!?マシュー!?あんた、」
こんなとこで何やってんだよ!と続くはずだった言葉はすぐ隣から伸びてきた片手で押さえられた。
「だから、大声禁止っつったでしょ」
不機嫌そうな声でじろりと睨まれて思わずたじろぐ。こ、怖っ!確かに驚いて叫びそうになったおれも悪かったけど、そんな睨まなくてもいいだろ!う、なんか急に腹へって死にそうだったことを思い出した。がっくりと首を垂れて下を見つめる。木目が綺麗な床だった。
「え、あ、そんなにしょげなくても…ああもう!いまポトフ温めるからそれまで座っててよ」
ぷいっと顔を逸らして何か作業を始めた女の人は置いといて、ちらっと逆方向に目を向ける。なんでこんな時までそんな余裕ぶった顔してんだ!なんか、腹立ってきた。
「あんたなぁ…!」
「まぁ、待てよ。お前の言いたいことも分かるけど、飯、食ってからでも遅くないだろ?」
別におれはそれでもいいけど、あんたはそんなでいいのかよ?あの、何とかって女の人のこともあるのに…まぁ、それを今ここで言うのは気が引けるから黙っておくことにして。座ってて、と示された場所へ腰掛ける。
「わっ!?なんだこれ!?ふかふかしてる…」
草原から町に出たときにもいろんなものがあってびっくりしたけど、ここは町以上に珍しいものがある気がする。あの明るいやつ、何なんだろ。燃えてるわけでもなさそうだし、火が止まってる、とかそんなことあり得るのか?
「珍しいものばっかりで気になるだろ?」
「べ、別に…」
本当はどんな仕組みになってるかかなり気になるけど、それをこいつの口から説明されるのは癪だ。うう、でも気になる。
「はい、お待たせ。熱いから火傷しないようにねー」
「う、うまそう…コレ、全部おれがもらっていいのか?」
「いいよ。私外で食べてきたし。マシューも食べたもんね?」
「あぁ」
よし、確認はとった。これで後で文句言われてもおれは知らない。白い湯気をたてる器を受け取って空腹を訴える欲求を満たすために得体の知れない食べ物にかぶりつく。
「あつっ!」
「…なんて言うか、ギィってさ、お約束をことごとくこなしてくれるよね…ある意味尊敬する」
「はは、お前がそんな顔するの初めて見た」
先送りする死刑宣告
…むかつく。見たことないぐらい穏やかな顔で笑うマシューになんでか胸の辺りがぐるぐると疼いた。この女はこいつのことをどれだけ知っているのか。なんて漠然と思ったけど、考え事してると飯がまずくなる気がしたからとりあえず、今は黙って食う。おれにできるのは、たったそれだけ。
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