「ねぇ、アルヴィス兄様。人を好きになるっていうのはどういう気持ちなの?」
歳が離れている可愛らしい妹からの質問に、アルヴィスは一瞬目が点になり呼吸を忘れ、それからすぐに脳内がフル稼働し始める。
名前が恋愛話?一体相手は誰だ?身内以外の異性と接する機会はそんなに多くはないはず。以前アグストリアで開催された会合で何者かに見初められたか?ラケシス王女とは親しくしていたが、そこでそんな話になったのか?いや、それにしては日が経ち過ぎている…まさか相手はドズルのご子息ではないだろうな、なとど僅かな間にめまぐるしく思考が行き交う。
「兄様?」
「いや、なんでもない。名前からそんなことを聞かれるとは思ってもみなかったな。何かあったのか」
結局、名前の質問には答えられず質問に質問で返すという結論に至る。
「別に…ただ、家族と過ごす時間より大事なことなのかなぁって。そう思っただけ」
ふてくされたような表情で話す名前を見て、誰のことを言っているのか見当がつく。
「それは人それぞれだろう」
色恋にうつつを抜かしている、というほどではないだろうが名前を寂しがらせているというのはいただけない。アルヴィス自身が公務やら何やらで名前に構ってやれないことが多いのだ。同い年とはいえ、そこは弟に男らしさを期待したい。
「ふーん…アルヴィス兄様は?好きな人、いるの?」
名前に問われてアルヴィスは自身の心に目を向ける。いつからだろう。女性に対し純粋な恋愛感情を持てなくなったのは。両親のことがきっかけなのは間違いないが、それを名前に悟られたくはなかった。
「私には必要ないな。お前たちがいれば、それで…」
「わたしと、アゼル兄上?」
「ああ」
半分だけではあるが、唯一血の繋がった弟妹たち。城主として、家族の幸せだけを願っているわけにはいかないが、彼らを大切に思う気持ちに偽りはない。弟には側で支えてもらいたいし、妹が嫁ぐのは寂しいが幸せに暮らせるならそれでもいい。
「二人は…どんな大人になるのだろうな」
できればずっと家族三人で。それはもう、今だけの特権なのだろうけれど。
「ずっと一緒よ!大人になっても!」
何の迷いも疑いもなく笑顔でそう言い切れる名前を眩しく思いながら、アルヴィスはそっと眼を閉じた。
END
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bkm