天邪鬼の愛で方


普段そんな気配に聡い方ではないけれど、なんとなーく視線を感じて振り返る、と。カツカツと音を鳴らしてこちらに向かってくる人影がひとつ。
あ、ミシェイル様だ。そういや今日は朝一番にご挨拶できなかったな。

「おはようございまーす」

そう思ってフランクに挨拶した、のがいけなかったのか。

「遅い」

「いてぁっ!?」

ミシェイル様はあろうことかいきなり私の顔面を片手で掴んできた。え、普通に痛いしあり得なくないですか?

「な、何するんですか!」

思わずミシェイル様の手を掴んで引き剥がす。っていうか手がでかいな!?手というか、腕?手首?私が両手でやっと引き剥がせるとかどういう身体してんの!
勢いでガッとミシェイル様を睨みつけてやったら何を考えているのかさっぱり分からない瞳と目があった。あれ、これもしかして最悪の不敬ってやつ?

「す、すみません!ごめんなさい!申し訳ありませんでした!」

慌ててパッと手を離してペコペコ頭を下げてひたすら謝る。ひええ死罪とか勘弁してください!

「手を出せ」

「え…」

手を出せってまさか手首からチョン!と断ち切られるわけじゃないよね?出せと言われて素直に出す奴がありますか!いやありますね、だって相手はあのミシェイル様だ。手のひらを上に向けたまま差し出して、その格好だと何か頂戴と催促しているような気がして慌ててひっくり返す。

「小さいな」

何をしているのか、と注意させるかと思いきやミシェイル様が呟いたのはそんな一言で。ぐい、と掴まれた手首と一緒に数歩たたらを踏む。そりゃあミシェイル様に比べたら小さいでしょうよ。なんて思いつつミシェイル様を見上げる。手の話、よね?

「小さい、ですか?」

「ああ。少し力を入れたら折れそうだ」

「折らないでください…」

不穏な響きに、思わずグーパーグーパーしていた手を止めて空いているもう片方の手でミシェイル様の右手をなんとか引き剥がそうと試みる。
え、無理。指の圧力やばい。

「痛い痛い痛い痛い痛いですミシェイル様!?わざとやってますよね!?」

こっちは若干涙目になりながら抵抗しているのにミシェイル様ときたら涼しい顔をして知らんぷりだ。

「もー!マリア様に言いますよっ」

私の直の雇い主はマリア様だ。こんな横暴許されない!直訴してやる!そう恨みのこもった目で睨んでいたら、さすがにミシェイル様も思うところがあったのかパッと手を離してくれた。

「あっ!?やっぱり赤くなってる!痣になったらどうしてくれるんですかー!?」

ミシェイル様の手型、とまでは言わないが手首はしっかり赤く染まっている。私の全力抗議をちらりとみただけで、ミシェイル様は鼻で笑った。

「お前が悪い」

そう、言い残して去っていったのだけど。鼻で笑う、といってもミシェイル様が笑っていることが超レアだ。嘲笑って感じでもないしね。
まぁ、何はともあれ両手首は切り落とされることもなかったし無事でよかった。ミシェイル様の機嫌もよくなっているっていうならこれに越したことはない。

END


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