「へぇ…貴方が名前ですか。僕、貴方に興味があるんですよ」
ひょろりと背の高い目の前の男に肩をがっしり掴まれて、名前はだらだらと冷や汗を流している。どうしてこうなった。
その日、名前はテラスでうたた寝を嗜むつもりだった。お昼を食べてお腹いっぱい、少し寝ちゃおうかな、なんて欠伸をしながら思っていた。木漏れ日が窓から程よく差し込んでくるいい塩梅の温もりを見つけてこれ幸いと、両腕を枕にして昼寝を決め込もうとしていた。
「あっ、」
すぐ側で声が聞こえたものだから名前も気になって体を起こす。振り返った先にいた背の高い青年と目が合う。
「いい場所見つけましたねぇ」
心底羨ましそうな声と表情に、名前は少し焦る。
「あれ、ごめんなさい。指定席とかでした?」
「いや全然。でも昼寝には良さそうだなって」
真面目そうに見える見た目に反して、青年もどうやら昼寝好きらしい。怒られることがないと分かった名前はほっと安心してだらーんと身体を伸ばす。
「ですよねー。もうお腹いっぱいだしちょっと休憩した方がいいかなって」
「え、いいなそれ。僕もそうしよう」
誰に言うでもなく自分でつぶやいて納得した青年は早速歩いていこうとする、が。
「あ、僕はリンハルトです。貴方の名前を伺っても?」
「あ、どうも。名前っていいます」
と、名前が名乗った瞬間リンハルト青年はカッと目を見開いた。そして冒頭に戻る。
「貴方ですよね、召喚師でもないのに召喚されたっていうのは。誰も召喚してないのにどうやってこちらの世界に来たのか…紋章学も面白いですが貴方の特性も非常に興味深い」
「いや別にそんな…興味持たれるようなことでも…」
異常な執着を見せ始めるリンハルト青年に名前は若干引いていた。もはや昼寝どころではない。
「いやこれはすごいことですよ!おまけに貴方と話していても全く疲れません!むしろもっと話したくなる…この不思議な感覚をどう表現すれば伝わりますかね!」
知らねぇよ。心の中でそうツッコミながら名前はなんとか逃げ出す方法を考えていた。と、そこへちょうどタイミングよく万年厨二病のウードが歩いているのが目に入る。
「あっ!あそこに紋章?が疼いてそうな人が!」
「えっ」
紋章が果たして疼くのかどうか、名前はまったく知らないが「血が騒ぐ」とかなんとかいつも言っているウードならば「紋章」という設定もなんとかしてくれるだろう。はた迷惑にもそう勝手に結論付けて名前はその場から逃げ出した。
END