「まさかお化け嫌いのキミが死者の国でこんなことしてるなんてねぇ…」
世も末だな、なんて思いながら本当にこの世の終わりのような世界を見回す。いつでも時空を行き来できるアタシにとって、見慣れた風景がこうも荒れ果てているというのは結構衝撃だったりする。
あの世界にいる時間が絶対数として少なかったとしても、愛着がないわけではないのだ。
「リーヴ。いや…ここには誰もいないし、アルフォンスと呼んだ方がいいかな」
ここだろうな、と予想していた通りの場所でかつての英雄リーヴの名を名乗るアルフォンスに声を掛ける。きっと、アタシがこの世界に現れたことを彼は感じ取っていた。だから、彼がアタシに驚くことはない。
「名前…」
マスクで覆われた表情からは、彼が何を考えているのか読み取ることは難しい。彼はもう、もしかしたらアタシの知っているアルフォンスではないのかもしれないけれど。でもそれを認めてしまうのは、いまこの場にいるアルフォンスにとってもアタシにとっても酷なものだ。
「どうして君が、ここに一人でいる?」
「アタシがそれを望んでいるから。それ以外にないでしょ。そんなことより、キミこそどうしてこんなことを?死者の帳尻合わせなんて…」
ヘルの言っていることを本気で信じちゃってるんだろうか。そんなの、「彼ら」が「この世界」に来ないと無理なのに。
「君に隠し事は無理なんだろうね。だけど、それなら話は早い。僕はもう、失いたくはないんだ。それが他の誰かの大切な人を奪う行為だったとしても」
「他の誰か」は別の世界の自分と自分の大切な人たちだろうに。仄暗く淀んだ瞳からはかつての彼を感じることは難しい。そこから滲むのは狂気、恐れ、絶望、諦観。
「それに、一人残らずこちらに来れば嘆き悲しむこともない。取り残されたとことに気づくことがないのだから」
「奪った命で仲間を…家族を蘇らせて、キミはそんな人たちに囲まれてそれを幸福だと思えるの?」
「誰一人救えずに後悔に暮れる今よりは、少なくともね」
救われない、報われない。死者のリーヴを名乗る彼を終わらせない限りは。けれど、終わりをもたらすのはアタシじゃいけない。それだと物語は進んでいかない。
「…いつか…終わりの日が来る。その時には、」
側にいる。そう言いかけて辞めた。そう言いながらも、実現できる保証なんてないのだから。それなら、もういっそのこと。
「やっぱりやめた。そんな顔するキミのこと放っとけないから、アタシが一緒にいてあげる」
いつか、キミが全てを託せる「彼ら」が現れるまで。そっと抱きしめたアタシを、彼は拒否しなかった。アタシにとってはそれだけで良かった。それだけが、現実であり事実だった。
END