「ちょっと…聞きましたよ?何やってるんです?」
僕を見つけた途端半眼になってズンズンと近寄ってきた名前の様子に、例の件だなと察する。
「何のことだい」
「しらばっくれても無駄ですよ!?なんでギムレー様を放り投げちゃうんです!?普通に引き戻ししてあげてください!」
「なんでって言われても…」
やっぱりか。サイリに習った背負い投げを試してみたかったし。なんて建前は浮かんだけれど、口にするのは上策ではないだろう。
「まぁ、いいじゃないか。もうしないし」
「そういう問題ですか!?っていうか信用できません…」
相変わらずのギムレー贔屓、というかもしや僕への信用がないだけか?まぁ、それはそれで良しとしよう。真正面から戦って勝てる相手じゃないことはよく分かっている。
「そう?だってほら、」
補助スキルの力は偉大だ。離れていた名前を強制的に引き寄せることができるし、その際の方法は割と自由だ。
「な、なっ…!」
だからこうして、名前の腰を抱いて引き寄せる、なんてことが可能になる。もちろん、彼女の意思は無視して、だ。
「あれ、知らなかった?背負い投げの件以来ギムレーがエクラに猛抗議したみたいでね、スキル装備変更したんだ」
引き戻しの方が戦略的には使い勝手がいいんだけど、それを変更せざるを得ないというのはエクラもよほどあの邪竜に手を焼いているということだろう。お気の毒様。
「そ、そういうことじゃなくて…!引き寄せにしたってやり方ってもんがあるでしょう!?大体何も今しなくても…っていうかいつまでこの体勢でいるつもりなんです!」
「うーん…君がおとなしくなるまで?」
腰に手を回して引き寄せる方法がそんなにクリーンヒットだったのか、顔を真っ赤にしてギャンギャン喚く名前はいつもと違って新鮮だ。ギムレーだったら問答無用で首根っこ掴んで引き寄せているだろうな、と容易に想像できて思わず笑ってしまう。
「何はともあれ君が僕を邪竜呼ばわりするお陰で、正攻法で攻めなくてもいいかなって思えるようになったからその点は感謝してるよ」
「あ、あなたって人は…!」
「ほら、君の大好きなギムレーだよ?」
フードを被ってニッコリ笑うが、多分彼女からはニヤリと笑っているように見えるんだろう。僕の言葉に絶句する。
「あなたはギムレー様じゃなくてルフレさんでしょう!」
「そう。最初からそう言ってるじゃないか。僕は君のことを足蹴にしたりはしない」
引き寄せからはもはや逸脱して抱き寄せに近い格好だけれど、それが解かれないのは互いの意思によるところと思いたい。髪の間からわずかに覗いた耳先が赤くなっているのに気づいてますます笑みが深まる。顔も真っ赤なんだろうなぁと思いつつ、それを見られたくないから反論しないし動かない、という判断もしたんだろうけど。
これも策の内、なんて言ったらまた怒られそうだ。
END