ふわ、と懐かしいような独特の香りが漂い足を向ける。多分、エクラだろうなと思いつつ足を進めていく、と。
「へ!?」
「え?」
予想外の人物がそこにいて思わず変な声が出る。
「あ、え…あの、アルフォンス…?」
「どうしたんだい?」
「ええっとぉ…」
いや、どうしたもこうしたも、その匂いはエクラだろうと思ったらアルフォンスだったなんてコレなんてドッキリ?まさか、まさか、アルフォンスがタバコをふかしているなんて…!
「あぁ、もしかしてこれのせいかな?興味があって、たまに気分を落ち着かせたいときに少しわけてもらっているんだ」
「あ、はぁ…」
「驚かせたかな」
「驚いたっていうかなんていうか、いやまぁ自由だけど。わたしたちのいた世界とは常識からして違うし」
いや、しっかし予想外だわ。そんな心の声が漏れていたのかもしれない。
「やっぱりエクラの印象が強い?」
「うーん、まぁ確かに。あと誰だろ。英雄として召喚されてないけどアレスとかファバルとか…あとパーンさんとかも似合いそうだけどガイアはタバコと見せかけてお菓子だったってパターンだよね」
あとは誰だろう?タバコと言ったら、のイメージか。オグマも似合いそう。傭兵の皆さんはなんとなく似合いそうだなぁ。ハーディン様やアルヴィス皇帝なんかは葉巻とか煙管とかのイメージかなぁ。
「そうか。名前は随分いろんな英雄たちを知っているんだね」
「え、まぁ名前を知ってるぐらいだ、けど…?」
あれ、なんかどこか地雷だった?雰囲気が一瞬にしてブリザード後みたいになってるんですが。どうしたんだろう、という疑問がまたまた伝わってしまったのかアルフォンスがそっと目を伏せた。
「僕には、似合わない、かな」
「似合わないっていうか…身体には毒だと思うけど…」
まぁその辺はエクラが説明してるだろうし。というか、タバコは似合う似合わないの問題ではないような。
「あれ、あの、もしかして他の人に言ってない…?」
「そうだね。なるべく気をつけてはいるんだけど、君に見つかるとは思わなかったな」
おおお、それはなんだか申し訳ない。でも密偵系英雄たちには匂いでバレてそうな気もするんだけどな。
「匂い、大丈夫かな?」
服をバンバンはたいた後で、自分の肩を近づけて匂っているアルフォンス。
「大丈夫と思うけど…?」
多分、タバコを吸ってることを人に気づかれたくないんだろう。図らずしも秘密を知ってしまったこちらとしてもなんとなく責任がある、気がする。
胸元まで近づいてすんすん匂ってみるけど、もはやタバコの匂いは消え去っている。
「うんうん、大丈夫っぽ」
大丈夫っぽい、と言いながら顔をあげて固まる。何故って、だってあのアルフォンスが顔を真っ赤にさせてしかもそれを隠そうと右腕で隠そうとしてるもんだから。
「ごめん、そんな直に来られると思わなくて…」
予想だにしなかった反応に思わずこっちも全身が熱くなる。
「ん、そだね、ちょっと近すぎた、ね」
カチコチに固まった身体をぎこちない動きで、一二の三!
「失礼しましたーっ!」
とりあえず、全速力で逃げてしまった。
「いきなり反則だよ、もう…」
いまだ赤い顔を両腕で隠しつつ悶えているアルフォンスのことなんて、想像できるはずもなかった。
END