「あ、なぁなぁゴードンさん。これってどうするんだっけ?」
それは、偶然だった。憧れのゴードンさんの姿が見えたからなんて声かけようかな、なんてドキドキわくわくしながら近づいた瞬間、鉢合わせてしまった。
「ん?あぁ君か。ここは…」
どこの一兵卒とも知らない男がゴードンさん相手に何かを教わっている。ちらりと見えたのは、そいつの階級を示す勲章の数。ブロンズがひとつってことは、つまり。
「私よりも階級下じゃねぇかぁぁ!なんだってそんなのが、ゴードンさんに、タメ口きいてんですか!?」
「知りませんよそんなこと。本人に聞けばいいでしょう」
「聞けないからこうやってトーマスさんを呼び出して問い詰めてるんですっ!」
くそう、私の崇拝するゴードンさんにあんな口をきくとは一体どういう了見なんだ。確かにゴードンさんは童顔だし、頼りなさげで優しいからそういう上下関係とか気にしなさそうなんだけど。
「許されない…」
「とか言いつつ、名前は羨ましいだけでしょう?あんな風にくだけて話ができたら、って本当は思ってる」
「別に、そんなことは…まぁちょっとぐらいは思わなくもないですけど、私は一応分を弁えてます」
トーマスさんにぐさりと図星を指されつつやさぐれる。私だってもっと近付きたい。まだ到底、肩を並べていられるような腕前じゃあないけれど、いつかは共に戦って信頼してもらえるようになりたい。
「私はいつか絶対、ゴードンさんとともに部隊を引っ張っていくような兵士になるんです!」
「それはご立派な…ではその前にひとつ助言しましょう。とりあえず、兵種変更でもしてそのへっぽこな防御力をなんとかしないと、あなた前線にも出してもらえませんよ」
意気込む私に対してなんてドライで的確なアドバイスをくれる人なんだろう、トーマスさんって。それはありがたいことだけど、ここはもう少し一緒に熱くなってほしいところ。
「せめて弓兵ならまだ救いようもありますけど、あなた壊滅的に弓の扱いが下手くそでしたもんね」
「人には向き不向きがあります…」
それがたまたま、私は弓じゃなかっただけだ。まぁ、それを知った時の絶望感は半端なかったし諦め悪く色んな人に頼み込んで教えてもらったりもしたんだけど。
「まぁ、とりあえず頑張ってみればいいんじゃないです?話ぐらいなら聞いてあげますよ」
「なんですかその適当な感じ…」
「適当とは心外ですね。名前のためを思って言ってるんですよ」
確かに、私の愚痴を毎度文句を言いながら聞いてくれる人はトーマスさん以外にはいない。確かに、できることからやってみるしかないのかもしれない。
「はーい。ちゃんとまた付き合ってくださいね?」
「はいはい」
適当な先輩だな、とも思いつつ感謝してるのも事実なのでそこはもう良しとすることにした。
END