「英雄たちとは仲良くなり過ぎないようにしているんだ。いずれくる別れが辛くなるから…」
ざっくりと。そしてはっきりと自分の心の奥深くが切りつけられたように痛む。その言葉を聞いた瞬間、私は一体どんな反応をしたのだろう。
衝撃が大き過ぎて、もはやその時のことを覚えていない。
「名前さん?どうしました?」
「…シャロン。大丈夫、何でもないよ」
いけない。ぼんやりし過ぎだ。心配してくれるのはありがたいけれど、彼女に心の内を言うわけにはいかない。
「でも、名前さんここのところずっと元気ないですよ!お兄様も心配してました」
シャロンの最後の言葉を聞いて、自分でもびっくりするほど心が騒めいた。アルフォンスが、私を心配している?ざわざわ煩い心臓を気取られないように小さく深呼吸。落ち着け、それは、アレだ。上に立つ者として、みんなのことを気にかけるのは当たり前なのだ。
だから私は、特別ではないしそもそも彼の特別にはなり得ない。誰とでも一定の距離を保つことを念頭に置いている彼とは。
「元気、出さないとね」
「はい!でも、無理はいけませんよ〜?すぐバレちゃいますからね!」
「えぇ?シャロン、意外と目ざといの?」
「違いますよ!名前さんのことに目ざといのはお兄様です!」
爆弾、二発目。
「そんなこと、ないと思うけど…?」
平静を装いたくても、もはや無理な気がする。変な汗はいっぱい出てくるし、顔は引き攣って明後日の方向を見るしかないし。
「そんなことあります!だって…ほら!」
「えっ、」
バッとシャロンが指差した方を振り向けば。この展開からすると予想通りとも言える、アルフォンスお兄様のお姿。でもこれは、シャロンがアルフォンスに対して目ざといってだけじゃ…?
「シャロン。人を指さすのは、」
「ごめんなさい!でもお兄様!名前さんとお話していたんです。そしたらちょうどお兄様の姿が見えたからつい」
え、ちょっと待ってシャロン。この流れでその話する!?
「そうか。二人で何の話を?」
「え、いや、そんな大した話じゃないない」
「お兄様が名前さんのことになると目ざといっていう話です」
シャロンー!これ以上爆弾落とさないで!っていうか、それだとアルフォンスの話題は大したことない、みたいなニュアンスに聞こえたんじゃ…?
「えっ…シャロン。アンナ隊長に先の戦いの報告を」
「え?それはもう終わったんじゃ…」
「シャロン」
「分かりましたー!」
え、シャロン逃げるの?この微妙な空気を残して逃げるわけ?コホン、と咳払いをしたアルフォンスにちらりと視線を寄越して固まる。目を伏せがちで頬がほんのり色づいて。そしてなんと言おうか、この独特の雰囲気。女子同士で恋バナなんぞするときには絶対でない、それ。
「名前」
「えっ、な、なに?」
「シャロンが余計なことを言ったようだけど…君のことに心を配っているのは本当なんだ。最近元気もないみたいだし、何か不安なことでもあるのかい?」
やばい。これはやばい。私は瀕死です。誰か、リバース持ちの誰か通りがからないかな!
「そう、いう、わけじゃあ…」
「シャロンには話せても、僕には話せない、かな」
「そんな!そうじゃなくて、その…迷惑だろうから…」
聞こえるか聞こえないか、ぐらいのボソボソした声だったけれど、彼にはしっかり届いたようで。
「迷惑なんてとんでもないよ。君のことが心配なんだ」
アルフォンスはズルい。そんなことを言われると私のことだけ心配してくれてるように錯覚してしまう。私はもう、その他大勢と同じ扱いじゃあ嫌なのに。
「そ、れ…」
「名前?」
「お疲れ様でしたぁ!」
「え…?」
だから、もう色々限界なんだってば!
END