「そんなことより、腹減ったな」
「ん?何々、私の手料理が食べたいって?」
どうにかこうにかマシューから靴を奪い取って、保管。ショーケースとかに入れたいけど、一般市民の家にそんなもんはないんだな、これが。
明日もばっちり仕事だから、のんびりともしてられない。マシューの言う通り、晩御飯の準備もしなきゃなんない。んー、何作ろうかなぁ。
「で、何が食べたい?」
私の質問に、マシューは少し考える風にして口を開いた。
「とりあえず、食えるもんなら何でもいいぜ」
何でもいい、なんて言うもんだからものっすごいグロテスクな料理を想像してみたけどそれを自分が作らなきゃいけないとなるとどう考えても現実的じゃない。後片付けとかしたくないし、第一食材がもったいない。
ここはやっぱり日本の伝統的でハイテクな文化を象徴するアレしかない。
「ラーメンでいい?」
「らーめん?」
「そっ!まぁすぐできるから見てなよ」
お湯沸かして3分だもんね。携帯食としても便利なんじゃない、これって。カップラーメンは残念ながらなくて、袋入りのインスタントラーメンを開封。お湯を沸かす間にキャベツ切ったりワカメやコーンの準備をする。冷凍コーン、あると便利だよね、やっぱり。
「じゃーん!愛情たっぷり特製ラーメンの出来上がりだよー」
「へぇ…もう出来たのか?」
お箸を渡して使い方を説明すれば、なんとも器用に食べ始めた。やっぱ密偵とかって手先が器用なんだろうね、多分。
すすって麺と汁を一緒に食べるのがミソなんだと話せばそれもまた器用にこなす。適応能力高いなオイ。心の中で突っ込みながら、この時私はまだ何も考えていなかった。
彼が元の世界へいずれ戻らなければならないということについては。
器用な密偵の不器用な心
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