「…名前、無事か」
鼓膜が破れそうなほどの轟音と、衝撃。稲光のような眩しさに思わず目を閉じて身体を縮める。
予想していた痛みは襲ってこずに、代わりに降ってきた彼の声にそっと顔を上げる。
「大丈夫、そう…だな、」
「ガイアっ…!?」
苦しそうな声。焼け爛れた身体。辺りに漂う異臭。
「えっ…やだ、いやだ…」
何が起こったのかは分からない。でも、わたしは経験で知ってる。目の前の彼が置かれている状況は、死んでいった仲間たちと同じものだと言うことを。
「やだ、お願い、いなくならないで、」
それでも、わたしには何もできなかった。傷口を塞ぐことも、杖を使える誰かを呼びに行くことも。
「名前…泣くな、もう…」
「む、無理だよっ…ガイアがいないと、わた、」
わたしの身体を掴んでいた彼の腕から力が抜けていく。嫌だ、彼のいない世界でなんて生きていけない。彼を失いたくない。そう思うのに、そのための行動が何一つ起こせない。
「やだ…ガイア!ねぇ!」
「ごめんな、ずっと…いっしょに、」
「いや…ガイア…ガイアっ…!」
かくん、と力が切れて瞳の中の光が消えていく。もう、駄目だ。
死んでしまった人は戻らない。
彼はもう笑うことも怒ることもない。呼んだって返事をしてくれることはないし、わたしの名前を呼んでくれることもない。
もっといっぱいお菓子を作ってあげればよかった。わたしの作ったものが一番美味しいって、あんなに喜んで食べてくれたのに。
もっと、もっと好きだってわたしにはあなたが必要なんだって言っていれば。
「どうして…!」
どうしてわたしを置いていったの。ガイアの居ない世界で、ひとりぼっちで生きてなんかいけないのに。ずっと一緒に、傍にいてくれるって誓いあったのに。
「ねぇ…いま、そっちに行くって言ったら…怒ってくれる…?」
彼の頬を撫でながら訊いてみるけど、反応はない。ないけど、きっと怒ったりしない。わたしの選択を哀しそうに受け止めてくれるんだ。
でも、そうだな。やっぱり笑顔で頑張ったなって褒めてもらいたいから、もう少しだけ頑張ってみよう。だから。
「その時まで、待っててくれる、よね?」
届かない境界線
(もう少しだけ、この世界に留まってみるよ)
END