惚れた弱味に付けいるキミが、
クロムさんにアズールが寝込んでいると聞いた時はびっくりして心配もしたんだけれど。

「えーっ?もう行っちゃうの?」

様子を見に行ってみれば意外と元気そうでホッとする。少し顔は赤いけど、いつも通りの調子の良さに苛々しながらピッと指を突きつける。

「えーっ、じゃない。ちゃんと寝てなきゃ治るもんも治らないでしょうが」

私が来るまでは大人しく横になっていたようだけど、今は起きあがっている。座ったままの体勢を維持するだけでも結構体力を使うって聞いたことがある。私と話をするために起きあがっているのだとしたら、見舞いに来たのに悪化を助長させるみたいで心地が悪い。

「名前がいてくれなきゃ眠れないよ」

「そんなわけないでしょ。大体そんなことしたら私に感染るじゃない」

「うん、だからその時は僕が看病してあげるよ?」

押し問答が続けば不利になるのは分かっているので、あえて何も答えない。このまま逃げ切れるか、と思ったけれど、あ、と呟いたアズールの眉がぺしょりと下がって。

「でもやっぱり、名前にはこんな想いさせたくないから駄目だね。ごめん、ワガママ言って」

……くっそ!やっぱり私の負けだ…!そんな、そんな寂しそうな悲しそうな顔で言われたら甘やかしたくなるじゃない、バカっ!

「…でも、もうちょっとだけ、ここに居てほしいな、なんて」

今まで逸らしていた視線を最後にそうっと、窺うように上目使いで寄越してくるとは。完全に彼の掌の上でコロコロ転がされている感があるのだけど、それもこれも、惚れた弱味というヤツだ。

「…悪化しても知らないから」

ベッドの縁に腰掛けてそう釘を刺せば、それでも嬉しそうに表情が和らぐ。

「うん…ありがとう」

私がここに居座ることに満足したのか、もぞもぞと横になる。その様子が先ほどよりも辛そうに見えて思わず額に手を当てる。

「ちょっと、アズール?熱、全然下がってないよね?さっきもう大丈夫って言ってなかった?」

「それは…名前の前で弱ってるところ見せられないし」

ぷいっと顔ごと視線を逸らせるのは可愛いんだけども、こんなに熱があって辛いんじゃあ、対応の仕方が変わる。

「あのねぇ…辛い時はそう言わなきゃ分からないでしょ?」

「うん…反省してます」

「ならいいけど…一眠りしたら、薬湯もらってくるから飲んで、汗拭くから着替えよう」

確か、病気が良くなるには原因を身体から追い出さないといけなくて、その過程で熱が出ることがあるらしい。汗をかいたままでは身体が冷えるし、治り時が肝心とも言うから気を付けないと。

「えっ、い、いいよ。着替えは自分で出来るし…恥ずかしいよ…」

「…分かったから。とりあえず今は寝なさい」

今さら着替えが恥ずかしいとか言う間柄でもないのだけれど。それをわざわざ言うのも照れるし、快復した時にどうなるか予測できるからそこにはあえて触れないでいた。



END



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