エリウッド様は、所謂完璧超人というやつだ。燃える炎の髪にスッキリした目鼻立ちで剣の腕はもちろん一流。そんでもって公子様だ。弱きを助け強きを挫く。絵に描いたような王子様なわけ。
まぁ、そんなエリウッド様がモテないはずもない。今日も今日とて、町中の女性たちの視線を集め、強者たちはあわよくばと話しかけてくる。なんとも、その意気や良し。私には到底真似できない。
「名前?疲れたのかい?」
前を歩いていたエリウッド様がくるりと振り向いて、私の目を真っ直ぐに見つめる。そこに心配する色を見つけて思わず慌てて否定する。
「へ?え、いや、全然大丈夫です」
「そう?それならいいけど、疲れているところを無理に連れ出してきてすまないとは思っているよ」
「えっ、いや、本当に大丈夫ですよ!?ちょっと考え事…というか思うところがあっただけで、」
まぁ確かに自分の訓練が終わったあと、エリウッド様から町の様子を見に行きたいと誘われたのは驚いたけれど。疲れたわけでも嫌なわけでもない。嫌、というのはむしろ…
「名前?また考え事かい?」
「え、っ!?」
「ここ、皺がよってる」
ここ、と言いながらツンツンとエリウッド様が私の眉間に触れる。あまりの衝撃に脳ミソが考えることを放棄して…そしてすぐに稼動し始めた。
「名前はいつも一人で何か悩んでいるだろう?僕では、頼りないのかもしれないが…話してほしいんだ。力になれなくても、君が一人で苦しんでいるのを放っておけない」
エリウッド様は、何か勘違いされていらっしゃる。別に私が悩んでいることといったら、今日のご飯は何かなとか、自主訓練の内容はどうしようかとか、今度の休日は何をしようとか、そんなくだらないことだ。エリウッド様にお話しするような内容ではない。第一、そんな、まるで特別扱いのようなことを言われたら勘違いしてしまう。完璧超人のエリウッド様は、私にもそういった優しい声掛けをしてくださるだけで。
「あの、本当に大丈夫、です、よ…?」
他意はない、はず、なのだけど。
「ああああの、エリウッド様?ちょっと近すぎません!?」
「うん、名前があまりにも僕の言葉を信じていないようだったから」
少し、実力行使に。なんて笑顔で仰っているのは想像できるけれども、正直おでことおでこがくっついているこの状況では確認できる筈もない。だって、恥ずかしすぎるでしょうが!近すぎるんだって!
「本当は…いつも、君とともにありたいと思っているんだ。これぐらいは構わないだろう?」
構うも何も、私には最初から選択肢などないだろうに。囁かれる声が何となしに甘く響いた気がして、それに便乗するように体の力を抜く。あとはもう、エリウッド様の仰せのままに、だ。
END