今日は日頃の慰労も兼ねて、みんなで食事に来ていた。行軍中はどうしても野宿が多くなるから、こうしてきちんとした屋内での食事は久しぶりだ。
「あれ、ガイアさんご飯食べないんですか?」
「いや、ちゃんと食ってるぞ。ほら」
「あんまり減ってない気がしますけど…」
目の前に座っているガイアさんの取り皿には、揚げ物やサラダなどが結構残っている。美味しいのに食欲がないのだろうか。
「それはお前、あれだろ。隣と比べたら、の話だ」
言いながら顎で彼が指す方を見ると。
「へ?えっと…どうしたの?みんな食べないの?」
もきゅもきゅと効果音でもつきそうなぐらいの勢いでサラダを平らげていくソールさんの姿。なるほど、確かにソールさんと比べれば、ガイアさんに限らず誰だって食が細く見えるに違いない。
「いえいえ、ソールさん本当に美味しそうに食べるなぁって思って」
「うん。美味しい料理ってみんなで一緒に食べるともっと美味しくなるよね」
「そうかもな。それにしてもお前より美味しそうに食べる奴はそういないだろうさ」
「確かに」
早食いってわけじゃなくて、綺麗にそしてこんなに美味しく食べてくれるとは作った人も嬉しいだろう。
「あ、そう言えばさ。前に異界でお祭りのあった街、覚えてる?」
「あぁ。あそこの露店で珍しい菓子があったからな」
お祭り気分を楽しもうとした時に屍兵が襲ってきた、あの街のことだろう。結構たくさんお店があったのは覚えている。
「あ、もしかしてあれじゃない?白くてモチモチした生地の中に黒くて甘いのが入ったやつ」
「それだ!あれ、旨かったなぁ…」
余程美味しかったのか、蕩けるような表情で想いを馳せているガイアさんに思わず笑ってしまう。
「本当に好きなんですね、甘いもの」
「名前にも今度分けてやるよ。あれは病みつきになる味だ」
「へぇ、ガイアでもお菓子を分けてくれることがあるんだ?特別なことでもない限りくれないかと思ってたよ」
「ま、その解釈に間違いはないと思ってくれていいぜ?」
ニッと口の端を上げてガイアさんが言えば、ソールさんも同じような表情で笑い返している。
「そうなんだ?じゃあ僕はちょっと向こうでカラムを探してこようかな」
「悪いな。今度お前にも何か用意しとくぜ」
グラスの中に沈んでいる果実をピンで刺そうと格闘しているうちに、ソールさんは片手を上げて向こうのテーブルに行ってしまった。
「…どうしたんですか?あ、ありがとうございます」
ピンにうまく刺さらず転げていた果実は、別のところからかかった圧力によってプスリと呆気なく刺さる。ガイアさんに掴まれた左手は果実を刺したピンと一緒に持ち上げられて、そのままパクリとガイアさんの口の中。
「いや。期待して待っててくれ」
それ、楽しみにしてたんですけど、とは言えなかった。手を握られたままでお菓子を想っている時より蕩けそうな表情で見つめられていては、ねぇ?
END
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bkm