【彼の場合】
彼女が他の男と楽しそうに話をしている姿を見るだけで、さざなみが沸き起こるように心がざわめく。火に飛び込む虫のような無鉄砲さは、ない。ただ自分にできるのは、この恋心が鎮火するのを息をひそめてやり過ごすだけ。そう、自分には言い聞かせていても彼女には伝わらない。
「セティ?どうしたの」
「いや…何でもない」
「そう?ならいいけど…」
どこか腑に落ちない、表情はそう物語っていたがそれ以上は聞いてこなかった。それがどうにも自分への思いの丈を表しているような気がして堪らない。自分のことなど気にならない、興味がないのだと言外に言われている気がした。
【彼女の場合】
何でもない、と言われてしまえばそれ以上突っ込むこともできないけれど、やはり気になる。
「アーサー、ちょっといい?」
人気のないところまでこっそり友人を連れ込み、袖を引っ張って耳打ちする。
「なに、どうした?」
「うーん、わたしの気のせいならいいんだけど…最近、セティ元気ないというか落ち込んでるような気がして…」
「心配?」
「うん…」
「特に変わったようには思わなかったけど…名前が言うならそうかもね。ちょっとこっちでも探り入れてみる」
「うん、お願い。また何か分かったら教えて?」
【第三者の場合】
そう、意気込んだはいいものの。
「あー…セティ、様?どうしてそんなお怒り?」
「別に怒ってなどいないが」
「へ、あ、はぁ…」
怒ってない、なんて口では言ってるがあれは絶対に不機嫌だ。魔を司るものなら誰にだって感じ取れる精霊が彼の周りにはいないんだもの。いつもなら賑やかなぐらい付きまとっている彼の風精ですら見当たらない。
まぁ、そりゃあこんなピリピリした状態のセティには近寄りたくないよなぁ。というか風精じゃなくても近寄りがたい。
「ならいいけど?名前が心配してたってことだけ伝えとくわ」
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