諦めたらそこで試合終了ですよ、なんて。もはや誰が言ったのかすら分からないのだけど。
「ねぇ、」
と、彼に声をかけてみてさぁ私は一体何を言うつもりなのか。
大丈夫?気にするな?何とかなる?
なんて無責任。どれもこれも、きっと彼の望む言葉じゃない。
「…僕は、」
「ん?」
「僕は、浅はかでした。突然この世界に来てしまったのだからいつか帰れるだろうと、そう思っていました」
こちらを見ずに話し続ける彼の声は、なんとなく投げやり。その雰囲気に既視感を覚えたけれど、それがいつ、どこでなのかは思い出せない。
「でも、そんな気配は全くない。恐らく、僕が別の世界に来ていることすら伝わっていないのでしょう。まだ、僕のことを知っている仲間が生きていれば、の話ですが…」
「…そこは、あなたが仲間を信じてあげないと」
「そんなこと!そんなこと…僕だって分かってます。仲間の無事を信じたい…!でもそれ以上にっ」
いきなり声が大きくなって驚いたけどそれは一瞬で、俯いてしまった彼の背中をこっそり見る。しっかりしているし幼い顔立ちではないから年上かな、と思っていたけれどそうではないかもしれない。
「それ以上に…あの世界は、僕たちのように未来を望む人間には厳しかった」
絞り出すような声で告げた彼の背中は小さくて、まだ独り立ち出来ていない、誰かの支えを必要としているように思えた。もちろん、人はいつだって誰かを支え、自分もまた支えられているのだろうけれど。
そこまで考えてふと、思い出した。投げやりというか自棄になっているようなその声に既視感を覚えた理由。それは私自身が、そういった場面を体験しているからだ。私の場合は人の生き死にが関わったり世界を越えたりなんて話ではないが。
「それでも、」
ここに在ることを認められたくて、でもそれが叶わなくて。どうにでもなれ、と自棄になってみても、本当は。
「それでもあなたは諦めていないし、あなたはここで生きている」
強がっていても本当は、心の奥底では自分を認めてくれる存在を求めている。自分が自分であることを許してくれる存在を。
「私はそう思うけどなぁ」
「そう、ですね…」
ねぇ、可能性は限りなくゼロに近くてもすべての事象に絶対はないでしょう?
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