灰色の世界が少しずつ変わり始めた、かもしれない。
(彩られて色移り)
「ええと、あなたが言う元の世界に戻るにはどうすれば?」
「…分かりません」
「え、」
「何故この世界に来たのかも分かりませんし…まずは現状を把握しないと。少し、手伝ってもらってもいいですか」
いいですか、なんて言いながら、その響きはほぼ断定されている。今時の若者にしてはしっかりしているような気がする。しっかりしているというか、生真面目。
「あの、僕の話聞いてますか?」
「え?まぁ、はい。程よく」
「…すみません」
「え?」
「いえ…いきなり見ず知らずの人間が現れて、訳の分からないことを言われれば誰でも不快に思いますよね」
そう言ってそっと視線を逸らした彼の表情は広い帽子の鍔に隠れてよく分からない。泣いてたりは、しないと思うけれど。
「別に、そんなことはないけど…」
一気に気まずい雰囲気になり、とりあえず私はそう言うしかなかった。ここで黙りを貫き通すわけにはいかないし、あっさり肯定できる性格でもない。
可でも否でもない。そんな道をずっと歩き続けてきた私だから。
「そうですか。それはよかった」
「え、」
「今後のことも考えてみれば、あなたの元に身を寄せられればいいなと思っていたので。ここに来たのが何らかの手違いだったとして、生活の拠点は必要なわけですし。あ、もちろん現状を把握するという意味では外に連れ出してもらわないといけませんが」
「は…」
ちょっと待て。ほんのりシリアス気味だったんですが私。しかも泣いてる?とかって気遣いまでしてたのに。裏を返してみればイイ笑顔で居候宣言ですか。関白宣言じゃないだけマシ…なんて諦めればいいのかしら。
「改めて、よろしくお願いします」
「えーっと…」
そう言って微笑んだ彼は、なんというか。知らない人が見たらこちらも同じように返したくなるような穏やかな微笑だったんだろうけど。ほんの僅かな間なのに垣間見てしまった強かな一面のせいで本当、悪魔のような笑みに思えてならなかった。
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