この褪せりを愛せたら
その光を感じたのは、本当に一瞬。稲光のようにごく短い間、ピカッと煌めいた。そんな、雷が鳴るような天気でもなかったので『アレ?』と思って振り向いた、ら。

「っ!?」

「うっ…」

ごろん、と人、らしきものが転がっていた。何これ、いつ入ってきたよこの人。もしかしてずっとベッドの下にいたとか?それとも天井にへばりついていたとかいやいや、そんなまさか。まさかそんな、ねぇ。

「ここは…過去、ではないようですね…」

暗い色のロングコート(の、ようなもの)にずり落ちたメガネを直したのは、声から判断するに男であることは間違いない。ないんだけども。

「あの、すみません」

そういいながら彼は、ごく自然な動作で帽子を被り直した。キャップとか、キャスケットとか、ニット帽とかベレー帽とか。そんな類いのもんではない。

「ここは、」

「魔法使い?」

「えっ?」

そう、魔法使いのようなとんがり帽を彼は被っている。そう言えばどこかの魔法学校は、三角帽子と杖、それから黒いローブがお決まりだった。
もしやまさかホグワーツの住人!?…なわけないか。

「あのですね、突然こんなことを言っても信じられないかもしれませんが…僕は、とある理由から時空を越えてやってきました。本来であればここが、僕の元いた世界の過去、のはずだったんですが…」

「違うっぽいと?」

「えぇ、まぁ」

「はぁーん…」

サッパリ意味が分からない。何を言ってるんだろうこの人は。いや、日本語の意味は分かるんだけど。あれ、というか。

「日本語…」

「え?」

「え、あ、何でもないデス」

日本語を喋れるというのはどういうことか。違う時空から来た、けれども彼のいた世界でも主言語が日本語、ということになる。
ということは、つまり。

「あの、」

「へ?」

「いえ…何を考えているのかと少し気になったので」

「ああ…うん」

どういうことなのか考えようとしたけれど止めた。考えたところで結局は理解できない現象なのならば、考えるだけ無駄だ。
とりあえずは、目の前にごろごろ転がっている難題を片付けなくては。





(この褪せりを愛せたら)
なんて、現実的離れし過ぎてる。





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