もっと甘い君が欲しい

「ふぁーあ…お腹空いたなぁ」

朝、いつもより早く目が覚めて起き出す。朝食係が食事を作ってくれているだろうけど、今日は厨房へは向かわない。毎回手伝い兼つまみ食いをしてるなんて不名誉な噂が最近聞こえてきたから。
全くの嘘ってわけじゃないから仕方ないかなとも思うけど、でもやっぱりそんな話は彼女の耳には入ってほしくないわけで。

「ソール?」

「っ、おはよう、名前。どうしたの?」

いま、僕は自然に挨拶できていただろうか。名前のことを考えている時に、本人が現れるなんてタイムリー過ぎる。

「おはよう…私は、ただの通りすがり」

「そ、そっか。えっと…あ、隣座る?」

「え?いや、別に用事があるわけじゃないし」

「あっ…そう、だよね…」

会話、終了。何を話せばいい?他のみんななら普通に話ができるのに、名前の前だといつもうまくいかない。
名前は人と話をしていても、あまり表情が変わらない。だからつい、僕と話していても楽しくないんじゃないかな、なんて考えてしまう。

「えっと…お腹空かない?」

「別に。ソールお腹空いてるの」

「えっ、いや、僕は…」

空いてない、そう否定しようとする声を黙らせたのは静かに存在を主張した腹の虫。もう本当、なんでこのタイミングでお腹が鳴るのか。

「これ、あげる」

恥ずかしくて俯いていた視界に、手のひらサイズの包み紙が映った。

「これは…お菓子?」

「そう」

「いいの?」

「うん。ガイアに見つかったら大変だから、早く食べた方がいいよ」

それは、もしかしてガイアにあげるつもりだったんじゃないの?そう、訊けばいいのに訊けなかった。

「…迷惑?いらなかった?」

「えっ!?いや、そうじゃくて…これ、本当に僕がもらっていいの?」

受け取ったものの、微妙な表情を名前に察知されて慌てる。そしてもう一度、今度はきちんと声に出して確認してみる。
すると名前は眉をぎゅっと寄せて少し怖い顔をした。

「ソールにあげたいから、食べてよ?絶対、約束。いい?」

「う、うん。ありがとう」

よくわからないけど、僕が受け取ったのを見て名前の表情が満足そうな微笑みに変わったから胸の中の小さなもやもやはあっという間に消し飛んだ。




END


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