わたしには悩みがある。
「名前、どっちの弓がいいと思いますか?」
「いや、あの、弓は専門じゃないので…」
悩みができた、と言ったほうが正しいかもしれない。
「見てください名前!髪型を少し変えてみたんです。どうですか?」
「え、ちょっとよく分かりません…」
その原因を作っているのはたった一人の男性。
「…っていうことがあったんですよ。あれ、名前?面白くなかったですか?」
「あー…わたしに話してるとは思わなかったので」
「はは、相変わらず手厳しいですねぇ名前は」
「トーマスさんも相変わらずですよね…」
そんなに何が楽しいのかは一切分からないが、彼は終始ニコニコしている。
「名前は私と話をするのは嫌いですか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど…」
「でも、いつも難しい顔をしてますよね」
「そう、ですか?」
顔に出しているつもりはなかったが、自分で気づいてないだけらしい。
別に、トーマスさんが嫌いとか、そういうわけではないのだ。ただ、こうもストレートに自分の領域に踏み込んでくる彼に戸惑っているだけで。わたしのことなんか放っといてくれたらいいのに。
「名前…どうしたら名前は笑ってくれますか?」
「えぇ?わたしだって楽しいことがあれば笑いますよ」
「うーん、的になりますか?」
「お断りします」
的になるってスリリングではあるが楽しくはないだろう。そう思って即答したら、トーマスさんは少し拗ねたように唇を尖らせた。
子どもみたいでちょっと可愛い。
「あっ、名前いま笑いましたね?」
「え?あぁ、トーマスさんがちょっと可愛いなと思って」
「私が?…名前って時々変なこと言いますよね」
「トーマスさんほどじゃないと思いますけど」
軍一の変わり者に言われたくないなとわざと澄まして言えば、それがおかしくてお互い顔を見合わせて笑ってしまう。
「あの、誰か二人にせめて戦場抜けてからにしてって言ってきてよ…」
「任せろゴードン。しばらく屋内療養絶対安静程度に射抜いてやろう」
「ジョルジュさん!?でも、それで名前が付きっきりで看護とかに、」
「そんなものはどうにでもなる」
でも名前のことはどうにでもなってないじゃないですか、とはさすがに口が割けても言えなかった。
END
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bkm