彼なりの純愛哲学

「あっ!卑怯ですよ名前!」

「卑怯じゃない!空を飛べるのはペガサスナイトの特権でーす!」

トーマスは下でぴーぴー喚いてるけどこの際無視。ふわりと舞い上がったペガサスの上でわたしは漸く一息つくことができた。

「まったく、何なのよ一体…」

ぐでん、と愛しのペーちゃん(ペガサスだからペーちゃんって言ったらカチュアさんにネーミングセンスを疑われた)に身体を預けて また一息。一体いつからそうなのかはさっぱり分からないけれど、先日いきなりトーマスに告白された。正直そのときはトーマスという人がどんな人なのかもよく分からないのできちんとお断りをした、ハズだった。ところがトーマスはそんなことちっとも関係ないらしい。『なら私のことをよく知って好きになってください』なんてのたまった。よく知ったからってそれが必ずしも好きに結び付くなんて限らないのに、と思いつつ曖昧に返事をしたのがいけなかった。その日からトーマスによる怒濤の猛アプローチを受けることになるなんて…まったく、人生何が起こるか分からない。
ふう、と何度目かのため息をついて、ふと何らかの気配を感じて斜め後ろを振り返る。何気なく地上に視線をやって、一閃。キラリと反射した何かは、それが何なのか判別する一瞬も惜しくてほとんど反射的に身体が動いた。バサっと音を立てて羽根を畳んだぺーちゃんとともに急降下。間一髪のところで虚空を突き抜けたのは一本の矢。飛んできた方向から考えると敵は味方陣営のすぐ近くに潜んでいるらしい。
慎重に飛行してどうにか森へ着地する。あとは敵に見つからないよう陣営へ戻ってマルス様に報告しなければ。どれぐらいの数の兵がどの辺りに潜んでいるか、敵の詳しい情報が知りたかったが天敵にこちらの存在が知られている以上深入りは禁物だ。とにかく、急がなければ。そう早足で歩を進めている時だった。

「名前ー?」

「トーマス!」

「あ、こんなところにいたんですか」

「どっ、どうしてここに…って、そんなことより敵兵が潜んでいる可能性があるから急いでマルス様に報告にいきましょう」

「敵ですか?」

「そう、さっき弓で狙われたわ」

方角的にはあの辺りか。ちらっと視線だけでそちらを指しトーマスを急かす。ところが彼はやけに冷静で落ち着いていた。

「あぁ、さっきのですか?あれは私です。敵じゃありません」

「…は?」

「だって名前、なかなか私のこと好きにならないからこれはもう心を撃ち抜くしかないかなって」

「なっ…」

撃ち抜くって、撃ち抜くってあんた。一瞬にして血の気が引く、というのはまさにこういう感覚だと思う。頭の上から冷水を浴びせかけられたみたいに体温がすっと下がる。

「あはは、冗談なのに青くなっちゃって。名前は本当に可愛いですねぇ」

まったく悪びれずに笑うトーマスは何を考えているのかさっぱり分からない。どこまでが冗談でどこまでが本気なのか。
もしわたしに矢が当たっていたらどうしていたの、なんて、恐ろしくて訊けるはずもなかった。




END


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