「っ!?」
頭のすぐ後ろで静かな低音が私の名前を呼んで思わず肩がびくんと震えた。もう、本当、こういうの止めてほしい。彼は自分の低音ボイスがどれだけの破壊力を持っているか全然理解してないと思う。
「…どうかしたのか」
「いえー、相変わらず美声なセイラムさんにびっくりしただけです」
思いっきり半眼でぶすっとして言ってやったのに、セイラムさんときたら短く「そうか」と返してきやがった。いや、そこはもっとこう、反応しようよ。心の中で全力で突っ込みながらもう一度こっそりセイラムさんの方を見た、ら、彼もこっちを見ていて目が合った。
「……」
「……」
「…なんですか?」
何なんだこの沈黙は。僅かな間ですら耐えられなくて思わずそう訊ねたらにゅっとセイラムさんの腕が伸びてきた。ふおおおっ!?ち、近いんですけど!?でもここで変に焦って先走ったりしたら恥ずかしいだけだしとりあえず落ち着け私。何が起こるのか思いきやセイラムさんはゆっくり私の髪を触り始めた。さらさら流したりくるくる回したり、…?
「あの、セイラムさん…?」
「ああ」
「(いや、ああ、じゃなくて)えーと、何してるんですか?」
ちょ、なんでそんな見て分からないのか的な表情するかな…!私の髪を触ってるって、それぐらいのことは私だって理解できてるんだけど、えーと、なんで髪先に口付けてるんですか?って、そんなこと訊けるわけない!うろり、視線を彷徨わせてなんとか気分を落ち着かせようと頑張ってみるけど、段々上がる体中の温度が顔に集中している気がしてグギギギ、と無理矢理セイラムさんから顔を逸らせた。ら、ふいにセイラムさんの動きが止まって一安心。ちょっとだけ残念に思ったりしなくもないけどこれ以上は私の心臓が耐えられそうになくて、うん、多分これでよかったんだと思う。なんて、ほっと胸を撫で下ろしたとき、セイラムさんの手が私の頭を軽く押さえて反対側に柔らかい何かが触れた。え、えっと…?何が起こったのか確かめようと恐る恐るセイラムさんの方を振り返る。
「え、あ、あの…いま、」
「同じだな」
「え?」
「今の名前の顔、私の髪と同じくらい赤い」
「っ!!」
いや、そういうことじゃなくて!ってかそれ耳元で囁くとか本当確信犯でしょ、セイラムさん。あーもう駄目色々駄目。今ので確実に私の耐久性はなくなった。
(耐久性ゼロ)
サフィに私の心臓リペアしてって言ったら、驚いた顔でこの杖は人には使えませんって言われた後どこか体調が悪いのかと本気で心配された。うん、そういうことじゃないんだけどね。
END