捕食者主義
「おい、新入り!あんまりキョロキョロするなよ」

「は、はい!」


口ではそう返事をしたものの、目に映るもの全てが珍しく、キョロキョロするなという方が難しい。

きらびやかな装飾や丁寧に施された細工。
見たことがない光景に思わず目を奪われていて、眼前への注意がすっかりお留守になっていた。これが、今から彼に起こる全ての元凶だと、この時は誰も知る由はなかった。












「痛ッ」

「っ!?も、申し訳ありません!」


ぽふっという音とともに軽い衝撃。しまった、と思う間もなくフィンは謝罪の言葉を口にした。
騎士見習いであるフィンは階級としては、下の方に属する。ぶつかった相手が誰であろうと、謝るに越したことはない。
しかし、今回ばかりは相手が悪かった。


「いや、ごめん。私も余所見してたから。それより…君、誰?」


蜂蜜色の豊かな髪をかきあげて覗き込むようにフィンを見つめる。赤褐色の双眸がいたずらっぽく揺れた。


「あ、わ…私は騎士見習いで、名はフィンと申します!」

目の前にいるのが、とても階級の高い騎士だということは、すぐにわかった。上級職者だけが身に付けるのを許される騎士の証が、眼前の人物の胸元に縫い付けられていたのだ。


「へぇ…まだ見習いなのか。実戦は未経験だね?」

「恐れながら、名前様。彼は先日漸く基礎訓練を終えたばかりなのです。とても戦場では…」


庇うよう口を挟んだ上官だが、彼が最後まで言い終わらないうちに再び名前が言い放つ。

「なれば、鍛えるまで。もちろん、私の元でね」



艶然と微笑む名前を前に、フィンはただただ事態を見守ることしかできなかった。

「本気ですか名前さま!?」

「はは、当然さ。キュアン王子には私が直接話をつけておく」


いいね?と問われるも、そこにあるのは確認ではなく確定の意味合いな訳で。


「よ、よろしくお願いします!」

「うんうん、可愛がってあげるからね〜」


足取り軽く去っていく名前に、この先うまくやっていけるかどうか若干の不安を覚えたフィンであった。




(名前…また新兵をからかったのか?)
(心外だな。私は君の役にたちたいだけだよ、キュアン王子)
(役に、ねぇ…)
(ま、いずれ分かるさ)




END


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