わたしは今、非常に悩んでいる。
「譲、相談なんだけどさ…カメラって作れないかなぁ」
「……え?」
ちょうど通りかかった譲にそう訪ねれば、ポカン、という擬音が見事当てはまりそうな表情で固まってくれた。おお、ナイスリアクション。
「カメラ、ですか?」
「そうそう、やっぱりわたし的には?あの劇的な瞬間を永遠に留めて置きたいっていうか?」
「何を見たって言うんですか…」
「えっ、聞きたい?」
「やっぱりいいです」
折角説明してやろうと思ったのに、彼はきっぱり辞退してさっさと行ってしまった。だいぶ要領よくなってきたっていうか、わたしの扱いに慣れてきた気がするなチクショー。
でもまぁ現代の技術を知る譲のあの反応を見る限り難しい、のか?ぶっちゃけ仕組みなんて全然分かんないしなぁ。
「あれ、名前ちゃん。今日は日向ぼっこかな?いいね〜」
「景時、」
あ、現代の技術じゃ無理でも…陰陽道ならイケる!?
「ねぇねぇ景時さぁ!一瞬の情景を永遠に留めて置ける方法って知らない?」
「え?」
うわぁ白虎、反応が丸かぶりなんですが。
「だからホラ、敦盛の照れてる顔とか嬉しそうな顔とか泣き顔とか、何回でも見てうっとりしたいじゃん?」
「あ、あ〜…そういうことか…うーん、できないこともないと思うんだけどね、」
「えっ、すごい!さすが景時」
「だけどさ、そういうのってやっぱり直接見たいって思うんじゃないかな」
「確かに…」
景時にしては、珍しく良いこと言ってる。写真で舐め回すように見るのももちろん至福だろうけど、写真は動かないし、喋らない。やっぱり反応があった方が楽しいに決まってる。
「と、言うわけでさ、敦盛。ちょっと泣いてみて?」
「み、神子?一体何が…」
おお、困惑してる。確かに、すぐ逢える距離にいるんだし別に写真とかなくてもいいか。遠くにいたって、逢いたきゃ会いに行けばいいだけだ。
「ん?いやぁ泣いたら慰めてあげるし、わたしに頼ってくれるかなぁと思って。敦盛、あんまり自分からそういうこと言わないし」
「それは…いや、神子は私に構わない方がいい。私は…」
自分の両手で何かを堪えるように着物を掴んで言いかけた敦盛に、思わず目を細めてしまう。
「敦盛さぁ…」
そんでもって出た言葉もやっぱりいつもより一段低い声だった。意識してそういう声を出したつもりだから仕方ないんだけど、びくりと肩を振るわせた敦盛に若干傷付く。
「穢れてるから、とかそんなん無しだからね?大体、敦盛が穢れてるんなら他の誰が清らかなわけ?」
「それは、」
「とにかく、神子たるわたしがそう言うんだから間違いない!それでもうじゃうじゃ言うなら…こうだ!」
掛け声とともに発動したのは秘技、抱き締めの術。誰にでもすぐできるけど敦盛限定でしか発動しない。ぎゅうぎゅう抱き締めてやれば敦盛も諦めて抵抗しなくなった。はっ、このわたしに逆らおうなんざ、100年早いわ。
「神子は、温かいのだな…」
わたしは人間カイロかい、なんてツッコミが頭の中で過ったけど、敦盛の両手が遠慮がちにわたしの背中に回って、それだけでもう他のことはどうでもよくなった。
「…当然、愛がこもってるからね」
END
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bkm