キミ依存症
君だけが僕を救えるんだ。

ずっとそう信じていた。
事実、僕にとって名前と過ごす時間が最も穏やかで、最も幸せを感じる瞬間だった。

だからそう。僕は今日も名前を探し続ける。


「秀吉、名前を見なかったかい?」


今日はまだ一度も名前に会っていない。
そういえば昨日も、一昨日も彼女の顔を見ていない気がする。

名前はどこにいるのだろう?僕は一刻も早く名前に会いたいだけなのに。だから秀吉にも声をかけたのだけれど、難しい顔をしたまま彼は俯いた。

「秀吉?」


どうしたのだろう。まさか名前の身に何かあったのだろうか。

答えようとしない秀吉に焦れて僕が再び声をかけようとしたとき、彼はようやく口を開いた。



「半兵衛……もう、もう良いっ…」


何が、と口を開こうとしたけれどそこから声が出ることはなかった。俯いた秀吉の視線の先には、蒼白い顔で苦しそうに息をする僕が横たわっていたからだ。




ああ、僕はもうすぐ死ぬのか。その事実を認識してじわりじわりと記憶が甦る。














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それから後の事はあまり覚えていない。今分かるのは、名前はもうこの世には居ないということ。

そして。




僕は床に臥せる自分をぼうっと見つめながら、ただその時が来るのを待った。肉体から離れてしまった意識は、再び戻ることはない。

何故なら僕がそれを望んでいないから。肉体に、現世に留まる意味が、見い出せない。名前の居ない世界で生きていく自信が、ない。

一方で、自分の夢をすべて秀吉に託してしまうことに罪悪感を覚えていて。二人でこの国の未来を変えようと、そう誓ったはずなのに。



「半兵衛…」


ねぇ、もういいだろう?秀吉。




「──っ、お前は、今までよく尽くしてくれた。感謝、している…」


秀吉、大丈夫さ。今の君なら僕が居なくても天下を統べ、その先を見つめて進んで行ける。



「いつまでも、お前を引き留めていては…名前が寂しがるやも知れぬな……」

臥床している僕の呼吸が段々浅く、緩慢になっていく。


「半兵衛」

いつの間にか僕の真後ろには名前が立っていた。


「あんまり遅いから迎えに来ちゃった。私と一緒に…来てくれるよね?」

不安そうに訊ねる名前の手をとって僕は迷わず即答した。

「もちろん」



「……我が、友よ…っ、」


その瞬間息を引き取った僕が最期に見たものは、きらりと秀吉の頬を流れた一筋の滴だった。




ありがとう、秀吉。
でも僕は名前と逝く。だって僕は、








キミ依存症
名前の傍を離れられない。



END


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