食べたい、食べたい。
貪るように、喰らいつくように。
艶やかな、紅い紅い、魅惑の唇。
「何、さっきから何見てるの名前ちゃん」
「うん?佐助の唇、美味しそうだなぁと思って」
「…は?」
思っていることをそのまま告げたら、佐助はポカンと間抜けな表情。
僅かに開いた唇の隙間から赤い舌が覗いて、私の理性を脅かす。
「ねぇ、私のモノになりなよ?」
「冗談。それ竜の旦那にも言ってなかった?」
「覚えてない」
私と佐助以外誰もいない、放課後の教室。
薄い唇から吐き出される溜め息まで全部、私が占領してしまいたい。
友達にそんな話をしたら軽く引かれた。仕方ないじゃない、そんなにも好きなんだもの。
否、これは『好き』なんて甘ったるい感情じゃないかもしれない。もっと激しく情動的で、狂おしい。
「名前ちゃんが俺様のモノになるんなら、話は別だけど?」
「…………それは不愉快」
私は佐助のすべてを独り占めしたいけれど、逆は嫌。
「でも、欲しいんでしょ?」
キィ、と僅かな音を立てて影が差す。言いながら腰を浮かせた佐助は、頬杖をついていた私の手首を掴んだ。そのままゆっくり近づく佐助の顔。
そう、私は佐助が欲しい。
佐助に触れたい。
佐助の唇に触れて、そこから愛を感じたいの。痺れるような甘さを孕んで、私だけに囁いて。
「佐助の唇から極上の愛が感じられるなら、」
考えてもいい。
そう続く筈だった言葉は呑み込まれ、目眩がするほど甘美な口付けに襲われた。
予想以上に柔らかく、意外と肉厚。唇から伝わる佐助の熱。脳髄の奥までビリリと痺れて、あぁ、もう。
「…ね、もう俺様しか愛せないでしょ?」
額をぴったりくっつけた距離で私に注がれる愛の言葉。
「…責任、とってよ──…?」
キスだけで楽園へと導いてくれる、佐助の唇。艶然と弧を描いたソレはまるで麻薬のよう。
一度手に入れたらもう二度と手放したくない。もっと、もっと、求めずにはいられない。
「当然。浮気厳禁だからね?」
そうして深く絡まって、繋がって、溶け合っていく。
ああ、最高よ?あなたの唇。頼まれたってもう離してなんかあげない。
END