「ああっ!アンタが名前ちゃんかぁ、びっくりさせんなよなー」
「はぁ、すみません…」
あなたに名前ちゃん呼ばわりされる筋合いはねぇ、と言ってやりたかったが以前三成さんに似たようなことを言われた経験があるのであえて何も言わない。というか、半兵衛様はわたしの名前を公言してらっしゃるとは…嬉しいような、でもやっぱりちょっと恥ずかしいよう気もする。
「てか、全然喋んねぇから調子悪いのかと思ってたけど」
「まぁ…気分は悪かったですけど?」
「なんか言い方にトゲのある気がすんだけど、気のせい?」
「さぁ…どうでしょう」
なるほど、雰囲気からなんとなく似てるな、と思ったけど彼はあれだ。モックンと同じタイプだ。モックンも頭が悪いわけではないのだが、日輪ハイヤーの社長と口論しているときに思わず遠い目をしたくなるような言動が多々あった。半兵衛様はもちろん、ギョウブとの対話に慣れていたから、この機知に富まない感覚は本当、懐かしい。三成さんやユキムラはまた別格だし。
「とりあえず、お仕事済ませましょう」
「あー…なぁ名前ちゃん、ちょーっとだけパチンコ寄ってかね?」
「寄るのはあなたの自由ですが、わたしには今日の往復経路を半兵衛様に報告する義務があります」
「いや〜だからそこをこっそりさぁ、」
「…三成さんにお伝えしてもいいんですよ?」
「…ですよねぇ〜…はは…」
懲りないドライバーにそう言えば効果覿面。どうやら彼にとっては半兵衛様よりも三成さんの方が恐ろしいらしい。まぁどっちも怒ったら怖いだろうというのは想像に難くない。
「急ぎますよドライバー、夕方までには戻りたいです」
昼前には出発したものの、まだ目的地には程遠い。エンジンを唸らせてスピードをあげる。
「へぇ、そんなスピード出していいんだ?」
「まぁ違反をとられるのはドライバーですので、その辺りはお任せします」
「…法定速度遵守しますよっと、これでいいっしょ!」
先ほどののんびり運転からは一転、ギリギリ捕まらないだろう速度をキープする。
「及第点、といったところでしょうか」
まぁ、半兵衛様の運転には遠く及ばないけれど。
END