「で、アンタにとって石田の旦那ってのはどういう存在なわけ?」
名前は考える。どう、と聞かれても正直子どもやペットのような感覚なわけだが、一国の武将に対してさすがにそれは失礼だろう。
「どうと聞かれても…なんと言いますか、家族、みたいなものでしょうかね」
間違っているわけではないし、大切な家族のようなもの、なので誤解を招く言い方でもないだろう。しかし、それを聞いていた周囲の捉え方は実に様々であった。
例えば。
「(家族って…あーらら。石田の旦那ってば振られちゃったわけかぁ。ご愁傷様)」
真田の忍隊を率いる猿飛佐助はそう思い、表情こそは変えないが腹の中ではこっそり笑っていたりする。
「ヒッ、ぬしの言う家族とは何たるぞ。我には理解できぬがなぁ」
そう嗤うのは石田軍の参謀とも言える大谷吉継その人である。彼にとって名前の存在は疎ましくも無碍にはできない、本当にやっかいな存在なのである。
そして、当の本人はと言うと。
「家族?夫婦ということか」
名前の言葉を疑いもせずそうのたまった。これにはさすがに佐助、吉継の両者が固まったが、今度は名前が首を傾げる番である。
「(めおと?めおとってなんだっけ?漢字を見ればわかりそうなもんだけど…兄弟の昔の言い方だっけ?まぁ、なんにせよ分からないことは口を挟まない方がいいかな)」
などと知ったかぶりをする、というより三成の発言を否定しなかったため事態はさらにややこしいことになっていく。
「夫婦って…正気か?石田の旦那は」
「猿よ。ぬしの言わんとすることは分からんでもないが…これが今の三成よ」
さも当然、という表情の三成と、唖然とした様子を隠すことなく呆れと困惑が入り混じった佐助。吉継はもはや諦めの境地でどこか遠いところへ視線をやった。
「まぁ、なんでもいいですけど…ひとまずお茶にでもしません?」
事の重大さがいまひとつ分かっていない名前だけは、いつも通りのおやつにすべくそう口を開いたのだった。
END
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