それは当然の成り行きだから

「皆さん聞いてくださーい!名前さん、ついに自動ドアにも認識されなくなりましたッ!」

教室に入るなり、そう怒号を響かせる名前に周りは特に驚くこともなく視線だけを動かせる。

「おはよう。名前、朝からどうしたってわけ」

「佐助っおはよう!それがさぁ、昨日買い物にスーパー行ったんだけど…そこの自動ドアに感知されなかった!ヤバくない、私!」

ハイテンションな名前に臆することなく話しかけたクラスメイトの一人、佐助はどことなく納得した様子で頷く。

「私の存在に気がつかないなんて幸村くんぐらいだろうと思ってたけど、私、とうとう機械に感知されないほど気配が薄くなったってことかなっ」

「幸村くん、ねぇ…」

佐助にとっては違和感しかないその呼び名を口にして何度目かもしれない溜息をつく。

「そんでさぁ、私はついに思い至ったわけ!前世は忍者なんじゃないかって!」

「…はぁ、」

溜息、再び。しかし佐助が溜息をつく理由は、名前に対するただの呆れだけではなかった。

「(ほぼ正解なくせに記憶は戻らない、か。まぁ、その方が今の名前にとっては幸せだろうね)」

そう、何を隠そう名前の前世は忍者だった。戦国時代に暗躍していた、所謂戦忍である。そしてそれはクラスメイトの一人、佐助もである。佐助は戦忍を束ねる長であり、とある武将に仕えていた。

「おはよう、佐助」

「あぁおはよう」

穏やかな空気を纏わせて教室に入ってきた、もう一人のクラスメイト。彼こそが、前世で二人が仕えていた武将であった。

「幸村くん幸村くん!私もいます!おはよう!」

「ん?あぁ名前いたのか。おはよう」

「今日もやっぱり幸村くんに気づかれなかった!」

ただ、二人には前世の記憶がない。何かに引き寄せられるように同じ学校の同じクラスだというのに、だ。運命とは残酷なものだなと、佐助の口からはまたしても溜息がこぼれる。

「(真田の旦那が名前に気づかないのは、別に不思議なことじゃない。側にいるのが当たり前過ぎて空気みたいなものになってるからだ。まぁ、そんなことわざわざ言ったりもしないけど)」

落ち着いた雰囲気の幸村と、マシンガントークを散発している名前。もし、どちらかにあるいは両者ともに記憶が戻ったら。
あの時代に生きていたことを懐かしい思い出だと、過去の体験として語り合えるだろうか。

「もー!幸村くんのバカッ」

「いてっ」

バシン、と痛そうな効果音に目を向けると名前に叩かれた頭を痛そうに抱える幸村が目に入る。

「(とりあえず、名前は自害しなきゃいいけど)」

元主人への暴挙ともとれる親愛さを横目に、佐助はまた一つ深い溜息をつくのだった。


END


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