ちょっと、ほんのちょっとだけ疎かにしていた。仕事は忙しいし寒いしで色々と見て見ぬフリをしていたのだ。食生活含む生活習慣…体調管理全般を。
「やっと君にも会うことができたよ」
目の前で綺麗に微笑むその人に、一瞬思考停止する。どうして豊臣病院の竹中先生がこんなところにいるのだろう。と言うか、竹中先生、髪は真っ白で唇が紫とか…まるで。
「あ…竹中ウイルス…?」
そういえば最近身体の調子が悪いとは思っていた。でも寝込むほどではないし(そもそも病院に行く暇がない)、幻聴もないから大丈夫だと高を括っていたのに。
「さぁ僕と、――…」
竹中ウイルスがこちらに手を伸ばす。幻視、だと分かっていてもここまで明瞭に姿が見えて、声が聞こえて。彼に抱き締められるような錯覚とともに、今まで体験したことのないような感覚に襲われそのままぱったりと、意識を手放してしまった。
「……、…」
「……」
遠くの方で聞き慣れない誰かの声がする。脳がそれを認識したと同時にふっと、意識が浮上する感覚。
「…あ、」
見慣れない真っ白な天井に一瞬混乱して、すぐに竹中ウイルスにやられたんだったと思い出す。それからここは病院だろうなと当たりをつけて。
「気がついたか。気分はどうだ」
優しさの微塵も感じない声の方向に目を向ければ、そこには例のクレイジーな看護師さんがいた。
「あんまり良くはないです…」
「軟弱だな。何故貴様のような脆弱な人間が、」
「三成くん、患者の前では慎むようにと言ったはずだよ」
暴言を吐く看護師を止めたのは竹中ウイルス…ではなくて、本物の竹中先生のようだ。
「…その反応だと、幻視+、幻聴は?」
「幻視が見えるまでは、何も。少し身体がダルいぐらいで、」
「ステージUの自覚症状がない、というのは気になるな…新型ウイルスの可能性も捨てきれない」
「入院ですか」
「えぇっ」
入院という言葉に思わず反応すると恐ろしいことにあの看護師に睨まれた。怖い、怖すぎる、何なのこの人。
「栄養状態も良くないし、免疫力が全体的に弱っている状態で通院治療しても完治に時間がかかるだけだ。大体、幻視や幻聴がありながら仕事ができるのかい?」
「確かに…」
幻聴だけならまだしも、まるでそこに人がいるかのような幻視は伊達先生が言っていたように鬱陶しいだろう。
入院の手続きを進める二人をぼんやり見ながら考える。竹中ウイルスの言っていた言葉。『君にも会うことができた』って一体どういうことなんだろう。
END
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bkm