「Hey,アンタ、また竹中ウイルスにやられたらしいな」
片倉先生より少し高めの艶っぽい声が響く。ぼんやりと靄がかかっていたような意識は徐々にすっきりしてくる。
「はぁ、どうもそうらしいです…」
声で分かってはいたが、そこにはニヒルに笑う伊達先生が立っていた。相変わらずのイケメンっぷりに対して自分の冴えない返事が少し居たたまれない。
「気分はどうだ?」
言いながら丸椅子に腰掛け、こちらの顔を覗きこみ徐に手が伸びてきたかと思うと、そのままビッと目の下の皮膚を引っ張られた。
「だいぶ楽になりました」
伊達先生の手はそのまま首に当てられる。ひんやりとした手が気持ち良くて思わず溜め息を吐く。つい甘えたくなる衝動を理性でどうにか抑える。そんなことをしたら、今度は羞恥でここに来られなくなる。となると、豊臣病院へ行くしか選択肢がなくなるわけだが、それは何としても避けたい。
「Hum…血液検査の結果からみても、竹中ウイルスだろうな。幻聴がきこえるってのは今回初めてのことか?」
「そうですね。幻聴なんですかねぇ…すごくはっきり聞こえるんですけど」
「竹中ウイルスステージUの特徴だ。ウイルス自体に意志があるかのような声が聞こえる、ってのはアンタ以外にもあがってる症例だ」
「意志…」
確かに、片倉先生には治せない的な発言はウイルスの主観だろう。あまりにもすんなり馴染む声に、そこまで違和感を覚えなかったが、言われてみればウイルスと会話なんて妙な話だ。
「竹中ウイルスが脳に直接何らかの影響を与えてるんだろう。進行すると幻視、顔面の筋緊張と色素沈着、さらには毛髪の脱色」
「こわ…」
「アンタ、豊臣病院のcragyな看護師知らねぇか?」
クレイジー、と言われて真っ先に浮かぶのは一人しかいない。
「あの鳥のクチバシみたい前髪の目付きの悪い男の看護師さんですか?」
彼の姿を思い出しながらそう言えば、伊達先生も吹き出したように笑う。イケメンは何をやってもイケメンなのか…
「腕は悪くないらしいがな。まぁ、そいつが最初で最悪の症例らしい」
「はぁ…」
だから豊臣病院へ行けば竹中ウイルスは一発で完治するのだろうか。
「まぁ、あそこへ入院したくなけりゃ、体調管理には気をつけとけ。ステージVまでなら通院で抑えられるが、幻視まで出てくると鬱陶しいだろ」
「そ、ですね…」
鬱陶しいとか言う問題でもなさそうだが、身体が辛くなるのは目に見えているのでとりあえず神妙そうに頷いておいた。
END