「苦しみたまえ。僕に冒されたからにはそう簡単に楽にはならない」
嘲笑う。そんな表現がこんなにも当てはまる場面に自分が出くわすとは思わなかった。体温計から響く電子音に目を落とすと、平素では考えられない高温。昨日までは何ともなかったのに。
「やられた…」
そう呟けば、諸悪の根元がにっこりと意地悪そうに笑った気がした。
竹中ウイルス。
ここ数ヵ月のうちに流行り蔓延している病気だ。特効薬、予防薬ともに開発はされておらずその体系も未だ不明の部分が多い。ただ、何故か女性の羅漢率がかなり高いらしい。
豊臣病院へ行けば一発なんだけど、あそこは特別怖い看護師さんがいるし(普通、女の人が多いから男の看護師さんって珍しいよね?大抵優しいイメージがあったんだけどな、ここに来るまでは)包帯ぐるぐるで車椅子の人がいつもいるし(いつから入院してるのか誰も知らないらしい。そして何故かあの怖い看護師さんと仲がいいっていう噂)たまに「なぜじゃー!」って大声あげる患者さんがいる(あれは怖かった。いきなりどうしたのかと思ったけど出てきた男の人は半ケツ状態でむしろこっちが何故じゃ)まぁとにかく、滅多なことでもない限り行きたくはないところなのだ。
だから最近はちょっと遠いけど、具合が悪くなったら双竜診療所へ行くようにしている。双竜だなんて名前もちょっとアレだし山奥だから本当にちょっぴり遠いんだけど、受診してみて分かった。何故こんな山奥なのに人がそこそこ多いのか、何故双竜なのか。
「今日はどうした?」
理由は単純。メインのドクター二人がイケメンなのだ。
「えーと…昨日まではなんともなかったんですけど、今朝になって急に頭痛くなって熱も出てて…」
「咳は?」
「出ますね。しょっちゅうではないですけど、咳が続くと血の味がします。あと…」
「あと?」
「声が聞こえます…」
げんなりとして申告すれば、目の前の片倉先生も溜め息をついた。
「竹中ウイルスの可能性が高いな…」
「…ですよねー…」
「自覚症状と、顔色が悪いからな。唇も青い。政宗様が午後には戻られるから検査結果をみて判断されるだろう」
電子カルテにカタカタと入力しながら片倉先生はそう言った。お昼まで待つのは結構キツイ。
「薬は先生に出してもらうわけにはいかないんですか?」
「俺は専門じゃねぇからな。竹中ウイルスのように厄介なものはきちんと診てもらったほうがいい。辛いだろうから点滴の指示は出す。大人しく寝ていろ」
「はい…」
診察前に「片倉くんには治せないよ」と言われた言葉を思い出す。ちくしょう、さすが病原体。自分の天敵はよく理解しているらしい。
END