07
吉継はこの状況を疑い、嘆き、怪しみ、困惑し…そして諦めた。人はそう簡単に変わるものではないと言うし、三成とて変わることを望んでなどいなかった。むしろ不変を願ってすらいたと言うのに、この有り様はどうだ。

「休んでいる暇などない!」

「うん、それはそうだろうけど働き詰めは疲労を溜めるし、そうなると仕事の能率下がるよ?ってことで今から休憩しよう、ね?」

「…貴様と口論している間が惜しいだけだ」

不承不承、とはしながらもあの三成が休息をとるとは。縁側にちょこんと座っている名前の隣に腰をかけ、茶を啜っている姿を見ていると思わず頭を抱えたくなる。彼を知らぬ人物はあれが凶王などとは夢にも思うまい。

「刑部、何をしている。貴様も休息しろ」

「いや、われは…」

「あぁ、大谷さん。お茶、準備してたんですよ」



何故、どうしてこうなったのか。
名前と出会った頃に思いを馳せてみるが、やはりどうしようもなかった、という結論にしか至らない。三成曰く、三途の川を渡り損ね黄泉還ったというがどうやらそこで名前に助けられたらしい。
なるほど、思い返してみれば当時の三成は心此処に在らずといった状態だった。主君を失った悲しみや宿敵を討てなかったことに関係があるのかと思っていたが、そうではないらしい。

「…名前、」

「ん?あぁ、もうお仕事戻る?はい、頑張っていってらっしゃいね」

これも、もう恒例となっているのだが、いまだに吉継は慣れない。束の間の休憩の後、三成はいつも通り執務に戻るのだがその前に必ず名前は彼の頭を撫でてやる。曰く、激励のつもりらしいのだが。
名前が撫でやすいように少し背を屈める三成を見ていると、何とも言えない気持ちになる。いや、その行為は無意識なのかもしれないが。あれではまるで主従、というより親子か。

「大谷さん」

「…なんだ」

くるりと振り向いた名前がこちらに向かって片手を挙げている。これもまた毎度のことではある。

「結構。われはぬしのオイヌサマではない故な」

あれに触れられては堪らない。三成ですら懐柔されたのだ。自分は同じようにはならない、そう確信めいたものはあるものの、では何故許容できないかと問われると答えに詰まる。
たとえ母子のように微笑ましい二人のやりとりを受け入れたとしても、自分の中に巣くう靄のように掴み所がなく鬱陶しい感情はどうにもできないのだろう。それが吉継を酷く困惑させていた。






prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -