06
けれど訝る吉継の声は、三成には聞こえていなかった。名前の目の前に膝をついて視線を合わせる。そんな彼の様子に目を見開いて驚いている吉継のことも、相変わらず気にしている風ではない。

「おい、貴様。何故あの時私を助けた。貴様は何だ」

何だとはなんだ、しかも初対面の女相手に貴様呼ばわり…そもそもあなたを助けた覚えなどない、そう突っ込んでやりたい気持ちは山々であったが、名前とて馬鹿ではない。返答次第では、恐らく自分の首が吹っ飛ぶ。そしてその可能性がかなり高いということは雰囲気で何となくわかっていた。

「助けられる命があるなら助けたいと思うでしょ…それに、」

これは、言ってしまっていいのだろうか。一瞬躊躇ったが、またしても御犬様を助けたその風景が蘇り、考えるより先に言葉が口をついて出た。

「あの時あなたは生きようとしてたでしょ?」

生きるための、本能とでも言うべきか。あの時のぎらついた双眸は、死ではなく生へと執着を示していたような気がする。

「私は、死を恐れたのか…?」

「生きようとすることと、死を恐れることは根本的に別物だと思うけど。あなたには何か成すべきことがあった、だからこうして生きてるんじゃない?」

さらりとそう言ってのけた名前にまたしても三成が硬直する。これは回答を間違えたか、と固唾を飲んで待つが一向に音沙汰ない。

「して、ぬしは何だ」

三成と同じ言葉をつかい名前に詰め寄る吉継だが、この問答はすでに数度繰り返されている。

「だから、しがない一般市民だって…あぁ、名前は名前です」

そこで名前も同じく返そうとして、自分が名乗っていないことに気がついた。そういうことを意味しているわけではない、と言いたそうな吉継であったが、三成は彼女の言葉を反芻するよう名前、と呟く。だが、それに気分を良くした名前は徐に立ち上がり、膝立ちになっている三成の頭をポン、と叩く。

「そう、よくできました」

母親が我が子を手放しで褒めるそれによく似た眼差しを、三成も吉継も呆気にとられた様子でただ見つめていることしかできなかった。





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